■消失村の殺戮理論

■作:森晶麿


文化人類学科の准教授となった岩井戸泰巳は、とある人物からの依頼により、地図にはない村『網花村』の調査へと向かう。

奇妙な信仰と生贄文化を持つその村では、まさにその瞬間、ありえない人体消失が起きていた。



切断島の殺戮理論から続くシリーズ2作目。

奇妙すぎる人間の消失と、やはり奇妙すぎる地図にはない村の因習。


さらに語られていく怪物の存在、双頭の神、生贄の儀ーー外連味たっぷりに、消失事件とともにそれらが物語の中心に落とす影にも意識が持っていかれてしまうわけで。


特殊設定ミステリーであるこの作品において、その「特殊性」が開示されるまでに、どこまで「内側にいると見えない不自然さ」を見つけられるかがひとつの楽しみ方では、と思ってます。


ただ、思考ゲームとひとつとして挑まれていると捉えて読み進めても、別のところに意識が持っていかれちゃうのです。


その最たるものが主たる語り手である岩井戸泰巳の軽妙かつ軽薄な思考と物言い。

彼の言葉や思考をなぞると気づけばズレが生じているわけです。

底の浅い人間のように取られながらも、その実、本人も無自覚な奇妙さというか、『最も不可解で不穏な存在が岩井戸泰巳という語り手なのでは』という方向に意識が持っていかれます。


この人の思考回路が本当に独特というか、ズレてて仄暗い怖さ(不気味さ?)で、それがクセになる感じ。


あげく、大学の関係者や村に関わる人々も一様に倫理観や価値観やふるまいの様子がおかしいため、やりとりを見ているだけで、大切なヒントを見逃し、ただ楽しんで読み進めていたり模して、なかなか、違和感と謎解きに手を伸ばせないということにもなってしまいがちです。


思考が傍にそれてしまうのは、ミスリードの一つとなりうるのか、と考えてしまうほど。


おかしな点はある。

当然違和感を覚えなければならない点が点在している。

そこにいる人間にとっては当然のこと、自明の理、故に語られることすらない事柄の中に、謎を解く鍵はある。

でもそれをおかしいと思えるのは、不自然と感じられるのは、そのルールに取り込まれず、外側から正しく観測できた場合のみだというのを再認識させられるわけです。


そして、『探偵』は「そこを間違えるな」「その推理はいい線いってる」といった感じでヒントをくれるけれど、容易には答えをくれません。

でも大きく道を間違える前の軌道修正としての機能は果たしてくれてます。

そういう意味では、特殊設定ミステリーならではの特殊な殺戮理論を紐解くための貴重なガイドラインにもなっているのかも。


あくまで理論とされている以上、ロジックが成立する作りではあるので、オカルトで終わらせない「謎解き」が用意されていることへの信頼も併せて、探偵にかかってる感もありつつ。


「あれはそういうことか」という合点のいく真相提示とともに、その世界観にどれだけ馴染めるか、馴染みすぎて思考誘導されていないか、そんな視点で読むシリーズだなとも思います。


なんとも不思議な味わいを残す読後感でした。