■明智恭介の奔走

■作:今村昌弘


神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。

小説の探偵を愛し、ミステリを求め、謎に惹かれる彼が出会う事件たち。

彼はただのトラブルメーカーか、あるいは?



屍人荘の殺人の前の時間軸における、明智恭介の物語がこの短編集なわけです。

語られるのは、大学では便利屋と認知され、探偵事務所でアルバイトをする明智が遭遇する日常の中の謎。

残酷さも陰惨さもなく、ケレン味もなく、不思議ではあるけれど、ダイナミックな事件ではなくて。

でも、事件を通して明智恭介の人となりが見えてきて、謎を通して彼と知り合った人たちの心も見えてきて、じんわりと心が温かくなったり、ふわりと意外性に驚いたり。


小説の中の探偵に憧れ、謎に魅了されたひとりの青年に、いつのまにかこちらまで魅了されていく不思議。


中でも書き下ろしとなる『手紙ばら撒きハイツ事件』は、アルバイト先である探偵事務所とそのメンバーがメインとなっていて、憧れた世界を身をおく、少年のように純粋な明智恭介がいるわけです。

後輩に見せる大学の先輩の顔ではないその姿に、ひたむきさと、言葉にできないようなきらめきを見てしまいました。

これはきっと、「眩しい」と表現するに値する存在なんです。


全5話の中で、明智恭介が見えてきます。

探偵に焦がれ、謎に呼ばれ、謎に魅せられ、改名せずにいられない、頼りになりそうでならないような、トラブルメーカーにもなる愛すべき探偵。


読み終え、振り返ると、こんなにも彼を愛おしく感じることに自分でも驚いてます。


これはこの一冊だけであれば、少し危うさのある、けれど愛すべき探偵の卵に触れる、心地よい物語。

そして、『屍人荘の殺人』を読めば、また別の感情を味わえる一冊。


スピンオフならではの妙味を堪能しました。