タロットカードで綴る物語

  …*…碧落にて真理を刻む…*…


私が見上げるこの空には、大きな門扉が閉ざされた形でこちらを見下ろしている。
太陽の光にも月の満ち欠けにも支配されずに存在するソレが、いつからあるのかは誰も知らない。
私の祖父母のそのまた祖父母たちも、生まれた時からあの天空の門を見上げていたという。
天界に続くのだと司祭さまは説くけれど、それを確かめようとした人は誰もいない。

だから、私はひとり、旅立つことを決意した。
あるものをあるがままに受け入れるには、私の中の『何故』が大きすぎたから。
『何故なのか』と思う自身の心のありようにすら興味を抱いてしまったから。
自身の内側と外側の双方に向けて探究するために、たったひとりで町を出た。

私だけが見えているらしい白く細く燐光をまとう道を進み、王立図書館、研究機関、あらゆる知識の宝庫で書物に触れながら、最後にたどり着いたのは沈黙の砦と呼ばれる遺跡だった。
砦は断崖絶壁にそびえ、そこから先に道はない。
そして砦の壁という壁に、失われて久しい神聖文字が隙間なく記されていた。
私はこの読み方を知っている。
月の雫に浸した紫水晶を砕いてランタンの灯りに換え、掲げると、刻まれた文字たちがまるで呼吸をするように微かに明滅し、そして問いを投げかけてくる。
抗いようもなく赤裸々に、私は私の心が触れるもの、私のこだわり、私の願い、私の価値観、私の世界――私を構築するあらゆる要素に手をかける。
ソレを厭うはずがない。
私は神聖文字たちから投げかけられるすべてに対して、自身の内と外とを探り、出てきた答えをさらに深く深くどこまでも掘っていく。
 文字そのものを愛しているといっても過言ではないほどに、私の魂に神聖文字が浸透していく。
いつしか問いに答えを出すたびに、砦の最上階から天に向けて、階段が一段ずつ、まるで真理に触れる足掛かりとでも言わんばかりに増えていった。
 導かれているのだと、確信する。
そうして私は、孤独を感じる暇さえなく、あの天空の門に手が届く日を心待ちにしている。

おそらくソレはそう遠くない未来の話なのだという確信とともに――



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◆タロットカード: Ⅸ 隠者
キーワード:うちなる知識、別離、理想の追求、自己探究、自身を深く見つめ直す


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