ソレは意思を持ったキケンな存在だったーー


わたしの職場は、研究室であり大学であり病院という特殊な機関だった。


ある分野に特化したものたちで構成された実験棟は、その日、なんの予兆もなく突如『黒いもの』に侵食されてしまう。


ソレに侵食されたものは、表面が歪み、中身がすべて黒く溶けてドロドロになる。

人も、机も、壁も、有機物も無機物も無差別にドロドロになって混り合う。


はじめは、同じ研究室の仲間とソレの正体をさぐろうと試みたのだ。

対応策を見出そうともしたのだ。

何より、未知の存在を知りたいと思ったし、なんとかできるのではとも思った。


でも、ままならない。

アプローチはことごとく失敗し、黒いものに侵食されるものが増えただけだった。


誰が呼び込んだのかはわからないが、対峙したところで勝てはしないのだ。


囚われる前に逃げ続けるしかない恐怖。

怖い。


せっかくの実験結果をほとんど持ち出せないまま、なんとか研究棟から外へ。

敷地の外まではアレは追いかけてこないみたいだ、ホッとする。


だけど、ここまできて、あの場所へ残してきたものの中にどうしても諦めるわけにはいかないものがあると判明してしまう。


わたしは黒いドロドロに侵されたあの部屋になんて戻りたくない、もう一度あの場所には行きたくない。


でも、行かなくちゃいけない。

わかってる。

私は研究者だから、戻らなくちゃいけない。

狙われていると分かっていても。


一瞬ひきずりこまれたが、仲間によって、すんでのところでかわし、また逃げながらあの部屋を目指す。


灰色に染まっていく建物内を走る中、ステンドグラスのはまる階段の踊り場でふと気づく。

見つけたのは、階段の側面に刻まれたメッセージだ。


「うさみ、ちゃんとするからね」


遊ぼう、とソレはいうのだ。


アレは、あの黒いものは、絶望的な死を体現してこの場所を呑み込み侵しながら、無邪気に遊び相手を探している。


うさみーーうさみとはーー



to be……?