■ OOPARTS 特別公演「天国への階段 北海道re-mix」~ありがとう道新ホール~
▶︎脚本:鈴井貴之
▶︎演出: 鈴井貴之
あるテレビ局が急遽取材することになったのは、死後3ヶ月以上経って発見された男の部屋を請け負った特殊清掃員の仕事。
ドキュメンタリーの取材を、そして遺品を通して、彼らが見たものとは?
7年前 のOOPARTS『天国への階段』再演にして、北海道リミックス。
これまでありそうでなかった役者はすべてオフィスキュータレント陣で固められた作品でもあります。
ファンとしては期待値爆あがり。
個性豊かな面々による、まるでジャングルジムのように組まれた特殊な舞台装置の上で展開される物語は最高のひとこと。
さらに、そこには、『鈴井脚本ならでは』の驚きがつねに見え隠れしてるのです。
題材は孤独死、そして特殊清掃。
ヘビーで重たくて痛い、けれど巧みに組み上げられていくエピソードに引き込まれ、目が離せない。
同時に、笑いは随所に散りばめられていて、テンポの良い掛け合いと息の合ったコミカルな動きで、エンタメとしてのバランス感覚を魅せてもくれる。
やわらかな甘さがない代わりに、痛みはあっても力強い優しさと一筋縄では行かない救いを用意してくれるのも、鈴井脚本ならでは。
ドキュメンタリーを撮るテレビ局側の人間と、特殊清掃を仕事とする人間、それぞれの思惑が絡み、織りなす人間模様。
「ああ、そうくるのか」「そこが繋がるのか」と思わず感嘆のため息をつきたくなるほどに丁寧な積み上げが、役者陣の演技力と演出でもって一層重みを増していく。
そこでまた、ため息をつきたくなるのです。
そして。
『たとえ人は死んでも、覚えてもらっている間は生きてる』
作品を貫くこの考え方がとてもとても切なく優しい。
人はいつか必ず死ぬ。
どのような最期を迎えるのか、そこにその人が辿ってきた人生が見える。
でも私たちが見ているのは、見えるのは、ほんの一部。
この舞台を通じて改めて、『ひとの生と死』について考えてしまいます。
仕事への姿勢についても、考えさせられます。
自分の価値観に、死生観に、看護観に、真っ直ぐに突き刺さるものがある。
だれの立場が、だれの言葉が、だれの思いがもっとも共鳴するか、揺さぶられるか、それは観る側の立場で大きく変わるのだろう、とも思うのでした。
救急救命の現場にいたという元看護師の言葉は、その葛藤ごと、かつて終末期病棟にいた私に刺さりました。
あの現場は、ある意味では緩やかに「最後のお別れ」と向き合う時間がある。
でも、その瞬間はずっとずっと先で、このままの日常が変わらず続く気がしてしまうことも多い。
そして、病院にいる以上は孤独死ではないけれど、孤独じゃないとは言えない状況の方もいる。
そして、介護の仕事の現場の話もまた心に刺さる。
老年期の方々の介護が日常となっているなかで、病院ならできることも施設では難しい。
でも病院には病院ゆえの限界がある。
この物語は、あまりにも鮮烈で重厚で切なくて優しくて力強い。
すごいものを観たのだと、観終えた後もしばし放心してしまう圧巻の舞台でした。
7月に舞台の配信あり。
ぜひさまざまな方に、観て欲しいと願う私がいます。