■ハムレット狂想曲

■服部まゆみ著


日本人でありながら英国籍を持ち、英国で活躍する俳優としても劇作家としても類稀な才をもつ主人公。

彼は、ある日本の劇団から柿落としの舞台作品のオファーをうけ、母を捨てた男への復讐を胸に来日を決めた。

それはまさしく「戯曲ハムレット」の如く、彼の心は揺さぶられ続けるのだがーー



読み終えた瞬間に、思わず「面白かった!」と口に出してしまった満足感のある作品でした。


物語の視点は、二つ。

ひとりは英国籍を持つ俳優にして劇作家であり演出家でもある男。

もうひとりは、劇団という王国を築いた女優の息子でありながらも己の才覚のなさにうちひしがれた青年。

そのどちらもがまさしくハムレットなのだと思わせてくれるうえに、入り組み方にギミックが効いてきて、引き込まれていくのです。


シェイクスピアへの愛とオマージュで綴られた物語は、ミステリーであり、演劇の世界を垣間見れるエンタメであり、美しい心理劇でもあります。


彼らを取り巻く登場人物たちもまた、ハムレットを彷彿とさせ、かつ、現実感を失わせないが真実の所在も曖昧となる役者揃い。

これが『配役の妙』となって、舞台制作と並行して楽しむこともでき、ますますます物語に引き込まれてしまいます。


なにより文章が美しい。

『文章』なのだけれど、『なめらかな肌触り』という感覚を味わえるのです。

心地よく、艶やかで、美しい。


服部まゆみ作品は最後の最後まで気が抜けないですし、どのお話もたまらないのですが、このハムレット狂想曲は、中でも特にお気に入りに。

個人的に読後感がとにかく好みでした。