もしも英雄がその裏切りを赦すなら、かくあるべきは?
散々悲劇の引き金となった裏切者は、かつての仲間に糾弾され、泣きながら懺悔し、俺らの英雄に許しを乞い、それでいて己の悲劇をことさら嘆いてみせる。
「あー、うん、まあ、あれだな。どのツラ下げて言ってんだって話だな」
「え、ねえ、まって」
「待たねぇよ。たとえてめぇが許しても、俺は忘れねぇし、なかったことにもしねぇんだ」
「もしかして、君、怒ってる?」
「もしかして、俺が怒らねぇと思ったか?」
「な、なんで?」
「言っとくが、何をされても怒らねぇってのは、美徳でも何でもねぇかんな」
ーー自己犠牲精神なんぞドブに捨ててしまえ
そう告げられたら、どんなにいいか。
だが、悔しいがソレはできない。
ソレは、我らが敬愛し、世界が"真なる英雄"と呼ぶ彼の崇高な魂を、これまで積み重ねてきたかの人の生き様を、全否定することになってしまうから。
だからそうは言わない代わりに、その精神に甘えに甘えて依存し利用する輩へ、心の底からの軽蔑と殺意と威圧を向けるに留めるのだ。
だが、無かったことにする気はない。
たとえ彼が赦しても、神も俺も裏切り者の罪を決して許さないし、忘れないのだ。
因果応報の理を、その身をもって思い知らせてやるんだ。
……目の前で泣いている人間を、捨ておけるのはヒーローじゃないとは、わかっている。