■鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
昭和30年代、戦後間もない日本において、ある村で起きた一族の惨劇。
鬼太郎の父たちは、そこで果たしてどのように出会い、そして、どのような結末を迎えたのか?
*
横溝正史の犬神家の一族や八つ墓村の空気感をベースに、水木作品かつ鬼太郎という世界が生み出すミステリアスホラーであり、それ以上に様々なテーマが織り込まれたエンタメ作品。
鬼太郎の父親と水木の物語は、その関係性の変化により、互いの魂や生き方、果てはその後の運命にすら大きく作用していくことが魅力。
水木とゲゲ郎の、不穏な出会いから相棒となるまでの関係性の変化がとにかく心を掴んできます。
バタフライエフェクトは、「あの場面でみずきが立ち上がるか否か」という、本当に小さなものだったとのちに知らされ、より一層趣が深くなります。
ミステリの文脈で見るなら、水木は『探偵』。
それも、自ら望んだのではなくそうならざるを得なくされた"役割"探偵。
日常から非日常へ観客を引き連れ入り込み
事件に関わり、目の前に並べられた謎を解き明かして見せる。
ゲゲ郎はもう1人の探偵。
彼が求める謎解きの軸は、妻の失踪。
なぜなら、彼にとって、村の惨劇の謎は謎たり得ないから。
最初から犯人が視えた節があり、ゆえに犯人探しには興味すら持たない。
水木とゲゲ郎ってほんとに対等な相棒、バディって感じがすごくするのです。
探偵と助手じゃなく、役割の違う探偵がコンビを組んでいる。
一方はヒトの世を
一方はアヤカシの世を
互いの不足する領域を補い合って、お互いの求めるものへ辿り着く関係性。
最初は利害関係でも、そこに絆が生まれる、その積み上げが丁寧に物語として機能しているのです。
そして、妖怪の実在する世界線ということは、特殊ミステリに分類されるのですけれど。
そこを組み込んだ上で、舞台装置がミステリとして機能しているところが良きです。
怪しげな登場人物たちと、不可解で不気味な因習、得体の知れない信仰に支配された村。独自の倫理観と掟。
鬱蒼として木々と禁域、時代に取り残されたかのような閉塞感もまた最高の演出に。
外部と切り離され、クローズドサークルを宣言されるシーンにはテンション上がりました。
もちろん、ミステリーとして必要な伏線も、とてもこまかく仕込んでくれてます。
ちょっとした表情、視線、画面の端に映る人物、飛び交うセリフ。
そのひとつひとつを拾い上げていくと、犯人も動機も、そこに至る過程すらも見えてくる。
重ねられてきた歴史と一族の業が、正しく伝えられている。
観終えた時に、「結局アレは何だったのか?」が残らないところはいっそ清々しいほどです。
昭和30年代という時代ごと、こちらもかなり丁寧に作り込まれていて、いっそ考察のしがいもあります。
さいごに。
映画の魅力として、スクリーンで見るだけの価値がある、圧巻のアクションシーンがたまりません。
動きが美しい。
人ならざるものの脅威が悍ましくも丁寧で息を呑みます。
ホラーやミステリーの場合、その絵はどうしても動より静によりがちです。
探偵の長台詞とか最高に好きですが、目まぐるしく魅せるカメラワーク好きとしては映像の派手さが足りず寂しい。
なのに、それがない。
そして、派手さで終わらせず、ドラマ性も十分に仕込んでくる。
行き届いたストーリーと展開が、エンディング後のあのシーンまで見る側を惹きつけ続けるのだと改めて。
ゲゲゲの謎、本当に久々に何回も劇場に足を運んだ、繰り返し見るごとに発見のある映画でした。