歪なバディ〜探偵と探偵助手の日常的な非日常〜


「うう、こんなんじゃ探偵になれん」

「あはは、きーちゃんは間違いなく探偵だよ」


きーちゃんは『探偵』に焦がれている。

そして、『真の探偵』になりたがっている。

すでに探偵資格を持ち、探偵協会に名を連ね、なんなら実績だって特級レベルで積んでいる。

なのに、『探偵ならば当然持ち合わせている』と考える要素から自分が離れたと感じたとたん、意識無意識は別にして嘆くのだ。


「髪切られたら判別できん。判別できてるときには、髪を切ったことに気づけん」

「きーちゃん、根底に他人への無関心っていうか、興味のなさがあるもんねぇ」


映画やドラマの伏線、細かなデザインからはじまり、日常生活においても、誰かの外見の変化や人間関係とかあれこれ。

きーちゃんは基本、ぼんやりしててあまり覚えてないことが多い。

特に人の顔、名前、声の判別はかなり苦手らしく、言われてもピンとこないことが多い。

視覚情報にとかく弱い。

あるものをあるがままに受け入れてるから情動が起きないし、違和感も覚えない、らしい。


ゆえに、気づけなかった己の観察眼と記憶力の無さに、己の不甲斐なさや探偵という肩書きへの不義理さと理想までの遠き道のりに嘆くというわけだ。


「彼女のあのアクセサリーの違いに気付ける君は、もしや神では?」

「いや、それ聞いて、送った相手の意図を考察できるきーちゃんもすごいとは思うけどね」

「だってあんなこと言ってたんだ、ということは根底にあるのは自己防衛本能だろ? それに、モチーフが百合だ。なら、これは愛だろ、誰でもわかる」

「きーちゃんは、分析と考察、ロジックの組み立てが最高なんだよね」


彼は、間違いなく『探偵』だ。


きーちゃんは、誰かがふとこぼした疑問や謎に対して、求められた途端、いともたやすく『答え』を口にする。

なんなら、提示されたデータや誰かのつぶやき、ちょっとした言動から、一足飛びに真相へとたどり着く。


細かな変化を記憶しないかわりに、魂レベルの本質を突然掴む。

時々びっくりするような角度の知識も披露し、そこに関連づけてさらに推理を構築せしめる。

バラバラで混沌としたパズルのピースの山から、当然のように、流れるように、組み上げられていくロジックの速度と精度の特異性を、本人はまるで理解していない。


「誰がなんと言おうと、きーちゃんは僕の最高の探偵だしね」


だから。

いつか、僕の本質も本性も、いとも容易く暴かれ掴まれてしまうのではないかと、戦々恐々としてる。

でも、それすら無関心ゆえに受け入れられてしまったらと、その恐怖の方がはるかに勝るから。

全部を笑顔の奥に隠して、僕は今日も、きーちゃんの探偵っぷりを崇拝し、由緒正しい助手として精を出すのだ。



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