キミに会いにいくんだ
生まれる前からキミを知ってる。
深い深い森の中。
タマゴは、ずっとずっと夢を見ていました。
あたたかい光。やさしい海の色。ゆらゆらゆれるあまいかおり。
タマゴの心の中には、たったひとつだけ、たいせつな名前がきざまれています。
ある日、時がきたタマゴは、ぱっかりとふたつにわれました。
中からうまれたのは、ちいさなちいさな海のように青いモンスター。
森の中で生まれた海色の体を大きくふるわせ、彼は自分のなかにきざまれた名前を大きな声で呼んでみました。
けれど、その声にこたえるものは、ここにはいませんでした。
彼は果てしなくつづく空を見上げ、くる日もくる日も、刻まれた名前の主を待ち続けました。
くりかえしくりかえし名前を呼びながら、いつか返ってくる声を待ちつづけました。
けれど、いくら待っても大切な名前のその人は現われてくれません。
青いモンスターは、ついに、決心しました。
たったひとりのその人を、自分で探そうと決めました。
生まれた森を抜け、川をわたり、山をこえ、どこまでもどこまでも進みます。
石につまづいてケガをしても。
まっくらな穴に落ちてしまっても。
時には大きなナニカに追いかけられて、とてもこわい思いをしても。
さびしくても、つらくても、どこまでもどこまでも青いモンスターは進みます。
「だって、いつかキミにあった時、ボクがキミをまもるんだから」
長い旅の途中、出会ったオウムの姿をしたモンスターは、彼に問いました。
「おまえはどうして、見たこともないそいつを探し続けられるんだい?」
青いモンスターは胸をはってこたえました。
「ボクはたったひとりのその人のために生まれてきたからさ!」
生まれる前から刻まれた名前の主が、彼の守るべきものだと知っているのです。
「その人にあったとき、ボクはようやくホントウのボクになれるんだ!」
さらに、彼は旅を続けます。
たったひとりのその人の名前を呼びつづけながら。
くじけそうになっても、泣きだしたくなっても、勇気をふるい起こして、青いモンスターは進み続けます。
「だって、キミにたくさんお話しできるってことだもん」
だいじょうぶ。
こわくなんかない。
どこまでもすすむ。
すすんでいける。
何度も声に出しながら、蒼いモンスターは旅を続けます。
話したいことがたくさんできました。
知りたいこともたくさんあります。
青いモンスターは迷いません。
青いモンスターはくじけません。
「だって、この道がたったひとりのトクベツ、たったひとりのキミにつながっているって、ボクは信じているから」
そうして青いモンスターの小さかった体は、伝えたいことでいっぱいにふくらんで。
空に届くくらいに大きくなった青いモンスターは、ついに、たどりついたのです。
たったひとりのトクベツ、生まれる前から心にきざまれた大切なひとのもとへ。
「キミに会うために、ボクは生まれてきたんだ」
「ねえ、キミはボクをなんて名前で呼んでくれるのかな?」
おわり。