ある冒険者パーティの一幕
糾弾と失望と正論の拳を振り上げた後に
「どうして? どうして私に黙ってたの!? 相談くらいしてくれてもいいじゃない」
独りよがりの絶望に浸りきった聖女の言葉が、俺の仲間であり大切な友人でもあるコイツを刺し貫いていく。
なぜ、どうして、打ち明けてくれなかったのかと詰る声に涙が混じる。
ーー親友と思っていた相手が、信頼にたる冒険者パーティだと思っていた相手が、自分の敵対する存在として、裏稼業に関わっていたと知ったのだ。
秘密にされていたことに怒り、あげく道を外れていたと知れば、声を荒げたくなる気持ちは分からんでもない。
だが。
詰る声に、正直いらつく。
ものすごく、いらつく。
「さっきから黙って聞いてりゃ、ぐだぐだと」
思わずふたりの間に割って入るくらいには、腹が立つ。
「あのなぁ。"なんで自分に言わなかったのか"って相手を責める前に、だ。相談してもらえるほどに信頼を得られなかった自分の不明を恥じるとかねーの?」
「……なっ」
「あんたには相談できねーんだって、こいつに思わせたのは、そういう関係しか築けなかったあんたの態度に問題があんじゃねーのかって話」
「……そん、な」
「ま、待って、待ってください、リーダー」
「いや、またねーよ」
言葉の拳を振り上げ、俺もまた遠慮なく相手へ叩きつける。
「あんたはこいつに、話しても大丈夫だって、頼っても平気だって、そういう類の安心感とか信頼とかを与えてやれなかったんだろ? なのに、なにを被害者ぶってんだよ。しかも自分で勝手に調べて、勝手にショック受けて、勝手に裏切られたとかいうの、ありえねーんだけど? 隠してんだから暴くなよ、暴いておきながら責めんなよ。本当、そういうとこじゃねーの、こいつがお前にほんとの悩みもほんとの気持ちも話せないできたのは、てめーの独りよがりな正義だの都合だの価値観だのを押し付けてきたからじゃねーの?」
正義気取りで振り上げた拳だ。
最大威力で自分がカウンターくらう覚悟も決めてる。
わかってる、これは完全なる同族嫌悪。触れてほしくない過去の失態を思い出させられたことへの八つ当たりだ。
「……っ! や、やめてくださいっ、リーダー!」
初めて見るくらいの焦りと共に、俺と聖女の間に立って、コイツはなぜか俺をまっすぐに見つめて告げる。
「言えなかったのは、私が怖かっただけなんです! 巻き込んだらどうしよう、迷惑かけたくない、邪魔したくない、嫌われたくないって、怖くて言えなかったのは私なんだよ!」
自分がただ臆病になっていたのだと、卑怯にも逃げてしまっていただけなのだと、そう言って、切なげに愛しげに肩越しに聖女へ視線を移す。
ソレを受けた聖女の顔見てーーわかる、理解する、そんでもって馬鹿馬鹿しくなって脱力する。
カウンターを喰らう覚悟はしてたけど、馬に蹴られる覚悟はしてねーな。
【副題】
親友に糾弾される仲間をかばったはずが人の恋路を邪魔する奴になりかけた件