綾辻行人のホラーミステリーの続編を読み終えたタイミングで、シリーズ最初の物語の当時レビューを発掘。
持って回った言い回しの、12年前の初読レビューを再掲です。
■ Another
中学三年の五月、中途半端な時期に夜見山へと転校してきた少年・榊原恒一は、思いがけない入院生活からスタートしてしまった学生生活の中で、自身のクラスにまつわる奇妙な噂を知る。
呪われた、三年三組。『ミサキ』と呼ばれる死者の存在。
やがて恒一の前では、次々とありえるはずのない凄惨な死が繰り広げられていく――
物語は、『What』『Why』『How』『Who』の四つの言葉によって章だてられている。
その中でさらに細分化された謎があり、雑誌連載ということもあってか、話の《引き》がテンポよく配置されているために読み始めたら追いかけずにはいられなくなった。
転校生である主人公・を取り巻く奇妙な違和感、謎めいた美少女・ミサキメイの言動、クラスメイトらの理解できない言葉のアレコレ。
ひとりだけ蚊帳の外に置いているかのような不安と不審と困惑。
現実世界に生きているがゆえに、ある程度のリアリティは保証されており、けれどどこかで危うげが空気がまとわりついて、物語全体を覆う雰囲気が実にいい。
また、少年の一人称ゆえの揺らぎとともに、学園ものならではの一種《閉鎖された空間》的シチュエーションが生きてくる。
コミュニティにはルールがあり、そのルールを厳守するためにどうするのか。
ギリギリのところで転がっていく話、謎が一段階、二段階と、形を変えて行く様は、心地よいカタルシスを与えてくれるだろう。
大人を巻き込みながらも、子供たちが主体となって展開していくところにも無理を感じさせない。
さりげなく、けれど気づいてしまえばかなり大胆に用意されている伏線。
操られている言葉。
夢と現の狭間で見る凄惨な光景は、少年の内面に踏み込みつつも作り物めいていて、緊迫感を持ちながらもどこかひどく美しい。
ホラーである以上、目の前で起こっている《事象》に中途半端な理屈は不要だ。
そしてミステリーと融合しているために仕掛けられたトリックが、ホラー的成分と混ざり合って、《曖昧さ》から《不安定》さを生みだす。
球体関節人形によってもたらされるエッセンスがまた、非常に心惹かれる彩となる。
恒一とメイの関係性に切なさとも違う何かを見、ふたりを通して、登場人物に、物語に、愛しさすら覚える。
分厚いけれど、引き込まれ、その本が持つ厚さを忘れてのめり込んだ、そんな小説だった。
やはり、綾辻行人氏の作りだす夢幻は心地よい。