■クジラアタマの王様
■作:伊坂幸太郎著。
ある製菓会社に寄せられたクレーム電話に端を発し、予想外の展開を見せる、不可思議さがたまらないエンターテイメント作品。
一気読みしてしまうハラハラ感とワクワク感がたまらないです。
広報部員・岸の等身大の親しみやすさと、なんとも言えない安定感、英雄的ではないけれど、妙に「彼がいるなら何とかなるのでは」と思わせる魅力が良きなのです。
他の登場人物たちも、じつにキャラが濃いのですが、そこがいい。
どこでどう絡んでくるのか、関係の紐付け方や登場シーンも楽しみのひとつに。
挿絵というには存在感のある数枚の漫画の挿入も、夢と現実が交差するような、ふわりとした浮遊感に包まれるような感覚となって楽しめる構成なのも興味深く。
伊坂作品ならではの軽妙さと、仕掛けと伏線回収の妙にもうなります。
あつかわれる物語は現実世界にリンクしているけれど、深刻になりすぎず、痛みを伴うような重苦しさにも至らず。
時にハッとさせられつつ、エンタメの心地よさをはずはないという、この物語と読み手の感覚との間合いの取り方も「さすが伊坂幸太郎」なのです。
殺人事件は起こらず、ミステリーではないけれど、ミステリアスな空気感も確かにあって。
タイトルからは想像のつかない、あらすじを読んでもよくわからない、けれど心地よい読書体験を約束してくれる一作でした。