「ガゼル様、最近一緒にいる女は恋人なのですか?」
「…いや、違う」
たまたま聞いてしまって、渡そうと思っていたお弁当を持ったまま固まる。
そんな私に気付かない向こうでの会話は、まだ続いている。
「そうなんですか?ガゼル様によく弁当を持ってきたりしていたので、てっきり……」
「それはアイツが好きでやっている事だ、私が頼んだわけではない」
「ッ」
――私が頼んだわけではない――
あの人の言葉を聞いた途端耐えられなくなり、静かにその場を逃げ去った。
曖昧な関係
その言葉を聞いてから早数日…楼華は一度も自分からガゼルには会いに行かず、呼びだされれば行くという事を繰り返していた。
私はガゼル様に愛されていると、特別な人になれたのだと…ずっと、そう思っていた。
でも、実際は違っていた。
思えばそういう関係になれたのだって、私がガゼル様に冗談めかして…いわゆるセフレになりたい的な事をいったからであって。
一言も恋人だなんて言ってなかった。
ガゼル様がキスしてくれたのも、抱きしめてくれたのも…愛があったからではなかったんだ。
それなのに。
「なーに自惚れてたんだろ……私…」
ぼそり、と誰に宛てるでもなく呟いた言葉は空気に溶け、そして消えていった。
所詮、あの方とは単なるセフレ関係(といってもまだ性的関係も持ってないけれど)だっただけ。思いだすのはガゼル様の言葉ばかり…泣きたいが、涙が出てこない。
――ピピッ
「あ、メール……」
不意に響いた電子音に、携帯を開くと一通のメール。差出人は…ガゼル様。
あの話を聞いてから彼関係の事には関わりたくないと思うも、そうする事も出来ずボタンを押しメールを開いた。
『今すぐ私の家に来い』
絵文字など一切ないシンプルなメール、なんというか彼らしい。
わかりました、とだけ返し携帯を閉じる。少し素気なさすぎるだろうか?
…いや、そんなの関係ないか。
「早く行かなきゃ…」
薄手のコートを羽織り飛び出すと、早足にガゼルの家へ向かった。
「意外と速かったな、もう少し遅いかと思ったが」
「今すぐ、と書いてあったので……」
家に招き入れられ、部屋へと歩いていくガゼルの後ろを大人しくついていく楼華。
いつもなら冗談の一つでも言えるが、今はただ早く帰りたいとしか思いつかなかった。
「さて…とりあえずベッドに座れ。聞きたい事がある」
部屋に入り、扉を閉めるとすぐにガゼルは楼華を見やる。
言われた通りにベッドに腰を下ろすと、ガゼルもすぐ隣に座った。
「何故最近、私の元へ来ない?」
「少し体調を崩していたので…」
「……本当か?」
「本当ですよ~、疑うんですか?」
冗談めかして微笑むと、数秒の間を開けた後ガゼルは小さく笑った。
「いや…ただ、会いたかったのは確かだ」
「!」
己の頬を優しく撫でる手、優しい眼差し…また、勘違いしそうになる。
貴方に愛してもらえている、と。
「お前は…私に会いたいと思ったか?」
「……私はいつでも、ガゼル様と同じ気持ちですよ」
「!…そうか」
――ありがとう――
小さく微笑んだ彼に抱きしめられ、私は静かに涙を流した。
引き際を弁えていれば、もやもやした気持ちなど持ちはしなかっただろうに。
二話目へ
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なんかごめんなs←