トランスジェンダー ROSE

 

 

ピアノ 教えてくれますか?

 

脳梗塞で倒れた母は、日中の大半を自宅2階の寝室でベットに横たわる生活が続いていました。   当時、2階の窓から洞海湾が一望でき、貨物船が行き交う様子を眺める母の姿が今でも記憶に残っています。

 

日中は、父も私も仕事があるため母は一人です。

病気に対する精神的な不安から、何度も職場に母からの電話が入りました。

 

「兄ちゃん (母は私をそう呼んでいました) 眩暈がするの 帰ってきて」

幾度か、会社や上司に無理を言っては早退していたことを覚えています。

その様な母を、見舞いに来てくれた妻か何となく気になりました。

母も妻のことは知っていたようで、楽しそうに二人の会話がはずみます。

 

傍にいた私も、妻に質問をしてみました。

    

「京子さんは、ピアノを弾かれますよね」

 

「ええ  ご存じでしたか ? 」

 

「回覧板を持って行った時に、ピアノを弾いている   後姿を見ました」

 

「猛志さんも、楽器なさるのですか?」

 

「自己流だけど ギターを弾きます」

 

「ギター良いですね  私は弾けません」

 

「ピアノが弾けるから良いですよ 私 ピアノ弾い   てみたいなぁ」

 

「私で良ければ 教えますが」

 

「いいんですか 是非 お願いします」

 

恋愛未熟者の私が、何故、このような会話を交わすことができたのか正直不思議でなりませんでした。

ただ、妻には、緊張感もなく自然体で話すことができたのです。

これは、きっと神様が私にくれた最後のチャンスと思いました。

      

「良ければ明日から練習に行ってもいいいですか ? 」

 

「夜ならいつでもOKですよ 家も近いですし」

  

そうなんです。 私の自宅と妻の家は、直線で30メートルくらいしか離れていません。 

徒歩1分もかかりません。

 

次の日から、私は、夕方の食事が終わると、妻の家に行くことが日課となりました。  

信じられないと思いますが、結婚が決まる日まで、毎日、毎日妻の家に通い続けました。 正しく夜這いと言っても過言ではありません。

どうしても行けなかった日は、暴風雨の1日だけです。

 

      

            ニンニクと十字架 ??

           

 

ピアノの練習を始めて、10日程たった日に、初めて2階にある妻の部屋に案内されました。

1階に置いてあるピアノの位置から、次のエリア妻の部屋へと移動します。

 

そこで、私は不思議な光景を目にしました。

妻の部屋にある引き戸の入り口の柱に、ニンニクと十字架が紐でぶら下げていました。 

       

「何故、こんなところに ニンニクと十字架をぶら下げているのですか ? 」

 

「ドラキュラが侵入できないようにです」


妻は、信仰深いクリスチャンでした。

あまり関係はありませんが、もしかしたら悪魔祓いだったのかもしれません


私とは、5歳年上で、真面目な顔で答える妻がとても愛おしく感じました。

この人なら、恋愛未熟な私でも、受け入れてくれると確信しました。

これからは、結婚を前提としたお付き合いをお願いしようと思ったのです。

 

                 

 

                                                                                        つづく

 

                   

                  作詞・作曲 ROSE