波瑠さん演じる坂井戸洸稀は、波瑠さんが過去に演じたどのキャラとも違う、だけど終始とても魅力に溢れたキャラクターだった。こんな人が現実に身近にいたら、きっと好きにならずにはいられない。それこそ、恋人にはなれなくても、ずっと友達で一緒にいられたら、という妄想=ファンタジーを抱いてしまう。

でも、そんな「ファンタジー」を架空の作り話ではなく、あるいは、ドラマの中の「役」としてではなく、現実に存在するリアルな人格のように錯覚させる、波瑠さんのお芝居の素晴らしさはそこにある。

主人公・向井(赤楚衛二)との関係、やり取りも絶妙の距離感とバランス。出会いの当初から、ダメ出しの連続の中に垣間見える思いやり、気遣い、あるいは好意すれすれの関心や共感。恋愛指南や相談、愚痴の相手をしている過程で、次第に芽生える、腐れ縁めいたフレンドシップ(ウェットな「友情」という日本語より、さらりとしてて、ぴったりくる感じ)。

カラオケでオール後の一緒に朝食から、虹の写真のSNSシェア、アポ待ちデートの屈託ない会話と「素」の笑顔。一転して、向井の告白に対する戸惑い、パイレオ前での正直な心情の吐露。すべてが洸稀というキャラクターのリアリティーそのもの、寸分の狂いもないお芝居の見事さ。だから、物語の結末も説得力に満ちている。

いや、そもそもそれが芝居であり、ドラマというフィクションであることを忘れさせて、物語の中に引き込まれる、これが波瑠さんという役者の魅力、醍醐味だと、あらためて実感。

もちろん、今回のキャラは、ビジュアルもファッションも抜群のチャーミングさ。個人的には、前髪がちょっとはだけて額の見える感じが、どきっとするくらい美しくて、ほんとにどんな服でも優雅に着こなすスタイルの良さは、洸稀のキャラクターの魅力と過不足なく合致して、いやあ、至福、眼福この上なし。

ずっと波瑠さんのファンでいる自分を褒めてやりたい(?笑)。

 

で、蛇足かもしれないけど(笑)、ドラマの方は、まあ、決して悪くはない出来、ロマンティック・コメディーというよりは、どちらかと言うと、リアリティー番組のような、キャラクターのリアルな心情描写が主題だった感じ。従来の恋愛ドラマでは十分に描かれてこなかった、恋愛とは何か、という問いに、できるだけ嘘っぽくない「本音」ベースで答えよう、という作り手の姿勢は評価できる、かな。

でも、自分としては、せっかく波瑠さんのお芝居を生かすなら、もうちょっとテンポよく、コメディー要素も前面に出してくれた方が楽しめたかも。心情描写もやや自分語りや説明台詞が多めで、会話が回りくどく、冗長になりがち。その分、リアリティーから離れてしまう。さすがに波瑠さんのお芝居だけは、台詞やモノローグに頼らない、的確な演出で良かったけど。

思うに、ドラマ全体としては、ややバランスがいまひとつだったかな。波瑠さんの登場シーンはそれほど多くなかったけど、洸稀が出てくると、さすがに役者としてのオーラが段違いで、画面の雰囲気がぱっと華やかになる。主演の赤楚衛二は、そつがない芝居で及第点だけど、もっと意外性やインパクトがあってもよかった。向井の妹・麻美(藤原さくら)とそのパートナー・元気(岡山天音)は、二人とも芝居は上手いのだけど、脚本や演出がその上手さを十分に引き出せていない感じ。向井の元カノ・美和子(生田絵梨花)は、キャラ造形やプロットの中でのポジションが曖昧過ぎて、芝居も難しかったんじゃないかな。観ている側もどう観たらよいのか、ちょっと困った感じ(笑)。

 

なんか、ちょっと注文が多くなっちゃったけど、でも、波瑠さんがトメで、疑似ヒロイン(?)で、かつ、アンタゴニストという、これまでにない、変わった役どころのドラマとしては見応えがあった。

ただ、やはり主人公ではないため、キャラの心情の変化やプロットへの積極的なかかわりは希薄だったので、この決して演じるのが容易ではないキャラをこれだけ存在感たっぷりに素晴らしく演じられる波瑠さんなんだから、やはり主演の作品を観たい、というのは偽らざる本音。