「サーチ#2」
全編PCの画面上でストーリーが展開する独特のサスペンス・スリラー。旅先で行方不明になった母親を探すため、高校生の娘が検索サイトやSNS、監視カメラや定点カメラの画像等を駆使して、必死の捜索を続ける。これ、「サーチ」という同じ趣向の斬新な映画の第二弾ということで、これを観た時点では前作は観ていなかったのだけど、後から観て比べてみると、この第二作の方が、プロットの複雑さ、駆使するデジタル・テクニックの多彩さ、事件が現在進行形で、次第に主人公自身も巻き込まれていく展開、さらに、ネタバレなので書けないけど、その手があったか!と思わせるエンディングといい、かなりバージョン・アップしていて面白い。
第三弾がありそうだけど、これ以上に凝ったものが作れるのか、できれば、ここまでの二作のような個人レベルの事件以上に、企業や政府などが絡む、もっとスケールの大きい作品になれば、なおベターなんだけど。
「聖地には蜘蛛が巣を帳る」
イランの聖地マシュハドで2000年代初頭に実際に起こった娼婦連続殺害事件に基づく犯罪サスペンス。犯人を追う主人公の女性ジャーナリストの意志と執念、取りつかれたように殺人行為を繰り返す犯人の傲慢で冷酷な狂気と隣り合わせの異常な正義、それと相反する哀れな惨めさ、犯人を英雄視する無慈悲で無責任な一般大衆、それらのすべてが観ていて胃がきりきりするようなやるせなさを感じさせる。でも、最も心を動かされるのは、被害者となった娼婦たちの境遇とその人柄や生き方、遺族を含む、その悲しみや苦しみ、無念さ、それに痛切な思いを抱いて寄り添う主人公の姿。
映画はもちろんハッピーエンディングなどにはならない。社会的背景は何も改善していない。希望があるわけでもない。しかし、そこには無力感や絶望感だけではない、観客の心に問いかける、強い思いがある、と感じた。
「ガーディンアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME3」
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の今年二作目、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・シリーズの第三弾。このシリーズは、個人的に「キャプテン・マーベル」以外では一番好き。何より、銀河のはぐれ者、性格も行動もユニークなキャラクターたちの躍動感が楽しいことこの上ない。このキャラ渋滞の中で、各キャラの魅力をそれぞれきっちり描き、設定やストーリーの奇想天外なわちゃわちゃ感も確実に面白さにつなげる、というのは作り手の相当の手腕だと思う。こういう常識からぶっとんだ、センス・オブ・ワンダーこそがマーベル映画の真骨頂・醍醐味。
今回はヴィランも悪辣さ全開で、確かに勧善懲悪ではあるけど、「RRR」とは違い、男臭い力づくの「正義」ではなく、虐げられたマイノリティーへの「共感」がその根底にあることが感動につながる。ロケットとライラの心の触れ合いは涙なしには観られない。ジェームズ・ガンの監督作はこれで終わりなのか、第四弾はないのか、ちょっと寂しくはあるけど、いつかまたこの愛すべきキャラクターたちの物語を楽しめたら、と願わずにはいられない。
「ウィ、シェフ!」
一流レストランをクビになって再起を図る女性シェフが、移民の自立支援施設の料理長をする羽目になり、移民の少年たちと対立しながらも、次第に交流を深め、料理を通して、少年たちとともに夢を追うというストーリー。
落ちこぼれキャラたちが、最初はいがみ合いから、お互いを理解し、助け合い、支え合って、華やかな成功を目指す、というのは、結構よくある映画。そういう意味では、先が読める展開ではあっても、主人公はじめ、少年たちや施設の所長など、それぞれの人物描写もしっかりしていて、リアリティーがあり、なかなか見応えはある。テーマとしても、移民に対する先入観、移民として十把一絡げではなく、一人ひとり異なる個性の尊重、経済的自立という問題を克服するために必要な教育や情熱、そういうことを考えさせる内容は、決して凡庸な「あるある」作品ではないと思う。
「ジュリア(s)」
この(s)は、複数のsで、ジュリアたち、という意味。題名のとおり、ピアニストを目指し音大に通う主人公ジュリアは、些細な転機での選択によって、その後の人生が大きく変わり、四つの枝分かれした生涯を歩むこととなるジュリア「たち」の物語。一種のパラレル・ワールドのような設定だけど、それぞれの人生は交差したり、干渉したりすることなく、別々に並行して展開する。
観ていて、今、どのパターンのジュリアが描かれているのか、分からなくなりそうにも思うんだけど、主人公を演じるルー・ドゥ・ラージュの芝居が見事で、それぞれのジュリアの境遇や心情がひしひしと伝わってくる。
ま、一言で言ってしまうと、「人間万事塞翁が馬(笑)」で、何が幸福で、何が不幸かなんて分からない、ってことなんだけど、でも、それよりも、これもどこかで聞いたことあるような(笑)「どういう選択をするかではなく、選択した人生を強く生きるかどうか」が大切ってこと。いやいや、どのような人生であれ、自分にも他人にも誠実に、懸命に、ときには弱くて、情けなくて、逃げても、負けても、それでも、生きている限りは前を向く、ってことかな。ん、なかなか感動的な映画だった。
「TAR/ター」
ベルリン・フィル管弦楽団で女性初の首席指揮者、という設定のリディア・ターという主人公がそのプライド高く独善的な仕事ぶりから、次第に周囲から孤立し、精神的に自分で自分を追い詰めるようにして、権力の座から滑り落ちていく物語。
批評家からは絶賛されているようだけど、んー、自分にはよく分からない、ちょっと意味不明な作品。権力の魔力や無常さ、ということで言えば、確かに、男性主人公ではなく、女性主人公であることで、男性なら問題にならないことが、女性だと何故問題になるのか、という問いかけにはなる。あるいは、芸術家の人格と作品の価値は分けて考えることができるのか、本当にそれでいいのか、ということだとしても映画の表現としては、あまりに回りくどい。
いずれにせよ、確かに主演のケイト・ブランシェットの芝居が凄い、と言うか、主演の芝居があまりに突出していて、テーマもメッセージも吹っ飛んでしまってるような気が(笑)。それと、このエンディングは、えーと、これは笑うところ、なんでしょうか??(笑)。
個人的には、アシスタント役のノエミ・メルランは好きな役者で、ああ、またレズビアンの役なんだ、いや、嬉しいけど(笑)。
⦅以下、(上半期その3)に続く⦆