海外バレエ団の来日公演を観るのははじめて。

英国ロイヤル・バレエ団のバレエ全幕はぜひ一度生で観たかったので、思い切って大枚をはたいて(笑)、東京文化会館で鑑賞。

観たのは、6月29日のソワレ、ジュリエットはプリンシパルのフランチェスカ・ヘイワードさん、ロミオは当初配役のセザール・コラレスさんが怪我のため、代役のアレクサンダー・キャンベルさん。

いや、やっぱり世界屈指のバレエ団だけあって、そのパフォーマンスの素晴らしさに圧倒された。もう、ずっと夢見心地、踊りと音楽とドラマに引き込まれ、感動と幸福感のひととき。

 

 

演目・公演の概要は、日本舞台芸術振興会の公演WEBサイトから、以下コピペで。

2022年に没後30年を迎え、その優れた創作の魅力が改めて認識されたケネス・マクミラン。なかでも「ロミオとジュリエット」は、シェイクスピアの国のバレエとして金看板ともいえる作品です。ルネサンス期イタリアの2大名門家の抗争を背景にした、その息子と娘であるまだ10代のロミオとジュリエットの、出会いから死までの1週間足らずの物語。マクミランはこれを、「宿命の恋」というテーマに焦点を当てながら現代的に描き、その魅力はいまなお色あせることがありません。 舞踏会で、そこだけ時が止まったようなロミオとジュリエットの出会い。スピード感溢れるバルコニーの踊りで、ロミオに掲げられたジュリエットが弧を描くように背中をしならせる美しさ。寝室での別れから、墓室で互いの死に絶望する最終場まで、無垢で激しい情熱にかられた恋人たちの、歓喜から死に至る疾走が大きな感動を呼びます。また重厚な舞台美術とドラマティックな照明、オーケストラの生演奏とともに、壮麗なキャピュレット家の舞踏会や広場での若者たちの躍動感あふれるシーン、脇の登場人物に至るまでのこだわりの演技など、ステージには見るべきものが満載です。

という解説のとおりで、自分のような素人が、素晴らしい以外の感想とやかく書いてもしょうがないのだけど(苦笑)。

 

今回どうしても観たかったのは、フランチェスカ・ヘイワードさんの踊りとお芝居。実は、英国ロイヤル・バレエ団は、「ロミオとジュリエット」の映画版も制作していて、その主演がフランチェスカ・ヘイワードさん。で、その映画を観て、彼女の魅力にすっかり心酔。

実際に観て、もうほんとに感激。第一幕途中の登場シーンから、心をわしづかみにされる気持ち。自分の中では、ジュリエットと言えば、フランチェスカ・ヘイワードさんしかいない、それくらい、ジュリエットのイメージそのまま、シェイクスピアの書いた脚本から抜け出してきたとしか思えない。人形を手に、乳母と戯れる十代の少女の愛くるしさ、婚約者と引き合わされての恥じらいと戸惑い、その初々しいビジュアルと清純な感覚にあふれた、弾むように生き生きとした踊り。

そして、ロミオとの出会いで、初めて恋を知り、愛の喜びに満ちた表情の豊かさ、解説にもある、バルコニーのパ・ド・ドゥでは、しなやかに、なめらかに、そして情熱的に、燃え上がる愛を表現する踊りの美しさ。ただもうひたすらため息。

それが、一転して、第三幕では、追放されるロミオとの束の間の逢瀬、狂おしくも切ない別れから、両親に婚約者との結婚を強要され、無垢だった少女が現実の酷薄な世界に直面し、自分の無力さに絶望する。一人部屋に残され、ベッドに腰かけて正面をじっと見据える、その覚悟の眼差しの悲壮さ。少女から大人になる瞬間の生々しさに思わず息を飲む。

緊張感で目を離せない、毒をあおるシーンの恐怖と躊躇と決心のお芝居の見事さ。

そして、エンディング、ぐったりとして、悲しみにくれたロミオに抱かれる踊りの虚しさ、、ロミオの死を目にして、号泣する、その悲痛さ、自ら死を選ぶ姿に、観ていて胸をしめつけられるようで、涙を抑えられなかった。

 

 

何だか、フランチェスカ・ヘイワードさんのことばかり書いているけど(笑)、もちろん、演目全体も素晴らしかったのは言うまでもない。

相手役のアレクサンダー・キャンベルさんは、純朴な好青年という印象のロミオで、ドラマのめりはりとしては少しフラットな感じも受けたけど、踊りの躍動感は申し分ないし、フランチェスカ・ヘイワードさんとの踊りの相性もよかったと思う。

 

何といっても、このバレエ団の真骨頂である劇的な演出は、生で観るとその迫真の表現力にうならされる。特に、このロミオとジュリエットは、シェイクスピアの国ならでは、まさにドラマチック・バレエの神髄を観る思い。豪華なセットに華麗な衣装。ダンサー一人ひとりの細かな動きまで、すべてが一体となってこの悲劇をリアルに形作る。

例えば、街の群衆のランダムな動きの中から、まず女性ダンサーが3人抜け出て踊りだし、それに別の3人が加わり、やがて群舞となり、また、元の群衆の中に溶け込んでいく。また、キャピュレット家とモンタギュー家の対立と剣闘シーンも、迫力と同時に、背景の群衆の動きと連動して、様式美を感じさせるダイナミックさ。群舞も同調性というよりは、躍動感、そして、プロコフィエフの音楽との調和、一体感という意味で、目を見張らされる。

とにかく、すごいものを観た、という感動。

 

いやあ、バレエの醍醐味を心行くまで味わって、大満足。

それにしても、フランチェスカ・ヘイワードさんは、踊りが素晴らしいうえに、思わず感情移入せずにはいられないお芝居の力、表情の豊かさ、ビジュアルの可愛らしさ、まさに稀有なスターだと思う。

バレエだけじゃなく、ミュージカルでも実写映画「キャッツ」の主人公ヴィクトリアを演じて、そのあまりのキュートさにはもうメロメロ。おまけに歌唱力も十分。バレエとミュージカルの二刀流。

そう、彼女なら、きっとロミオとジュリエットのジュリエットだけじゃなく、ウェストサイド・ストーリーのマリア役もできるはず。ああ、それもいつか実現するんじゃないか。って、バレエの感想から脱線して妄想(笑)。

いずれにせよ、英国ロイヤル・バレエ団の来日公演がいつかまたあったら、フランチェスカ・ヘイワードさんの、今度はぜひ「マノン」とか。