すごく久しぶりだけど、鑑賞したバレエの感想を。

観たのは、新国立劇場バレエの「ジゼル」、昨日(10月23日)のマチネ、プリンシパル米沢唯さん主演の上演回。

いやあ、とても良い、素晴らしかった、感動した。

 

って、バレエの感想は、ドラマや映画の感想と違って、バレエの技術的なことも、演目の上演の歴史やバレエ団・ダンサーによる振付・演出の違いなど、鑑賞歴が浅いこともあり、知識にもボキャブラリーにも乏しく、いつも単純な表現になってしまう。

良かった、とか、素晴らしかった、とか、何だか、食レポでただ「美味しい」とだけしか言えない、みたいな感じ(笑)。

ほんと、バレエを観て自分の感じたことを的確に言葉で表現するのは至難の業。

前回バレエの感想を書いたのは、昨年5月の「コッペリア」だったんだけど、実はその後、6月に木村優里さんの「ライモンダ」、10月と11月には「白鳥の湖」を米沢唯さんの回と木村優里さんの回の2回、年末には恒例の「くるみ割り人形」を米沢唯さんの回で、今年になって、2月にチケット予約していた「吉田都セレクション」はコロナ蔓延で残念ながら中止だったけど、5月の「シンデレラ」と6月の「不思議の国のアリス」はいずれも米沢唯さん主演のを観に行った。

感想を書くのをさぼっていたのは、どうもうまく言葉がまとまらないまま、あれこれ考えているうちに時間が過ぎてしまっていたから。

鑑賞したバレエは、どれも素晴らしく、心から満足したことは言うまでもない。

 

で、今回のジゼルの感想なんだけど、これは、クラシック・バレエの名作中の名作ということで、バレエを知っている人なら、あらためて内容を説明するまでもないのだけど、一応、例によって手抜きで、新国立劇場のHPから、あらすじだけコピペしておく。

 

 

村娘ジゼルは、恋人アルブレヒトが実は貴族で婚約者もある身と知って衝撃を受け、錯乱のうちに死んでしまう。
後悔の念にうちのめされたアルブレヒトはジゼルの墓を訪れる。そこは若くして亡くなった乙女の精霊であるウィリたちが支配する夜の森。ウィリたちにとらえられ死ぬまで踊り続けるよう命ぜられたアルブレヒトを、ウィリとなったジゼルが身を挺して守り通す。

 

あらすじだけだと非常にシンプルな内容に聞こえるが、まあ、実際に、ジゼルとアルブレヒトの恋愛描写と恋人の裏切りによって、ジゼルが哀れにも狂死するまでの村の広場が舞台の前半第一幕と、一転して後半第二幕は、墓標が立ち並ぶ不気味な月夜の森の中で精霊(ウィリ)が繰り広げる神秘的な世界という、二部構成のストーリーは、確かに非常に単純(笑)。

でも、シンプルなストーリーにも関わらず、例えば、第一幕の最後、ジゼルが悲しみのあまり正気を失い、切ない感情が奔走し、乱舞の末、アルブレヒトに取りすがるようにして、崩れ落ち、その腕の中で非業の死を遂げる。米沢唯さんの迫真の踊りと芝居、その圧倒的なパフォーマンスに心を揺さぶられ、涙が溢れて止まらない。

対照的に、第二幕は、寒々とした静寂の中での、命をやり取りする非情な審判への必死の抗い、ウィリとなって、悲しみで表情を失ったかのようなジゼルが、それでもアルブレヒトへの愛を懸命に貫こうとする、その思いがひしひしと伝わってくる、米沢唯さんの踊りに胸がしめつけられる。その優美でなめらかで、しかも力強い踊りには、ただ絶句するしかない。

 

あと、これは新国立劇場バレエのいつもの見どころなんだけど、コール・ド・バレエの踊りの見事さ、完璧な同調性は、群舞がまるでひとつの美しい壮大な生き物のようにさえ思えてくる。第一幕の村人たちの踊りも非常に良かったけど、何と言っても、第二幕のウィリたちの群舞は、いわゆるアラベスク・ホップ(片脚で立ち、もう一方の脚を後ろへ水平に伸ばしたアラベスクのポーズを保ったまま、軸脚で踏み切ってのホップ)を繰り返して、12人ずつのグループが左右に交差するシーンは、あまりの美しさに陶然、踊りの途中でも思わず会場から拍手が湧き上がる。

また、ウィリの女王ミルタを演じた根岸祐衣さんの威厳に満ちたクールで、しかもしなやかでスケールの大きな踊りにも唸らされた。根岸さんは、一度はバレエを断念して、航空会社の客室乗務員から、コロナ禍でバレエに復帰・転身、昨年、新国立劇場バレエ団にオーディションで入団したことでマスコミでも取り上げられた人だけど、今回は大抜擢でこの大役を見事に踊り切った。今後の活躍も非常に楽しみ。

 

ということで、今回の感想もバレエを観た感動や喜びをあまり言葉で上手く表現できていないけど、あえて感想を書いたのは、つまり、自分にとってのバレエ鑑賞は、言葉や理屈ではない(笑)、って開き直りめいた言い訳をしたかったから(笑)。

そもそも踊りと音楽で構成されているバレエ、一応、ストーリーはマイムでも追えるけど、極論を言ってしまうと、ストーリーはそんなに重要な要素じゃない。

さらに言ってしまうと、どんなストーリーだろうと、踊りと音楽さえ良ければ、バレエはそれだけで至高の芸術となる。

現に、今回のジゼルにしたって、ストーリーははっきり言ってたいしたストーリーではない。そりゃ、19世紀の古臭い、ある意味、歪みのある価値観、道徳観に基づいているから、ストーリー自体から感動を引き出すことはほとんど無理。

だけど、それでもなおそこに感動があるのは、ジゼルという、無垢で健気な一人の女性、その人間の心情のリアリティーを、踊りと音楽を通して、理屈抜きで実感することができるから、それを表現できる素晴らしいダンサーの力があるから。

そういう意味で、バレエを観る体験というのは、ストーリーに縛られてこわばった心を解き放つこと、言葉や理屈からの解放、それ自体が喜びにつながるのだ、と思う。

 

言い訳がましいけど、そんなわけで、バレエはこれからも楽しみにしていろいろ観たいとは思ってるけど、感想はめったに書かないことになりそう(笑)。

 

でも、次回のバレエ鑑賞はもう来年かな。

来年2月の「コッペリア」は、昨年無観客ライブ配信だったのが、いよいよリアル上演を鑑賞できる。今回は上演日時の都合で観られなかった、自分がファンの木村優里さんの上演回を予約するつもり。木村さんに以前からずっと期待していたけど、今年はついにプリンシパルに昇格、プリンシパルとしての舞台を初めて見られることに今からわくわくしている。