今回は、エピソード主人公の成瀬(田中圭)がナイト・ドクターから脳外科への転科に悩む、というストーリー、医療技術の専門性がひとつのテーマだけあって、手術シーン、処置シーンの描写時間が長く、まさにザ・医療ドラマという展開。

医療ドラマを見慣れない自分としては、結構ハードボイルドな印象(笑)。

 

医療ドラマという観点で言うと、今回は患者側のドラマは希薄で、これまでのエピソードのような医師側のドラマと境遇が重なる部分はほとんどなく、ドラマは医師側の職業観の葛藤という点に絞られている。

救命救急医療の未来を明るくしたいというナイト・ドクターとしての理想と、何でも屋ではあっても専門性を磨くことのできない、医師個人としての将来性への不安。医師としての技術を追求してきた成瀬が、脳外科専門の後輩に後れを取って、面目を失い、悔しい思いをする、というシビアなストーリー展開はなかなかインパクトがある。

高名な料理人・安西の手術で2度目のオペ中止を経て、成瀬がナイト・ドクターとしての自分の使命、自分にしかできない専門性の意味を見いだすことで葛藤から抜け出す姿も結構感動的だった。

 

これ、単純なテーマの捉え方をすれば、成瀬ひとりの物語として完結してしまえる内容。

でも、このドラマの面白さは、それを成瀬ひとりの物語にせず、同じようにナイト・ドクターとしての自分の将来性に迷う高岡(岡崎紗絵)や深澤(岸優太)ら、仲間たちの思いと重ねて、成瀬の境遇がそれぞれの気持ちに波及している構成になっていること。

高岡や深澤が、成瀬の重荷になりたくない、と自分たちだけで急患の治療・救命処置に懸命に取り組むシーンはすごく良かった。

 

で、成瀬の物語と高岡や成瀬の物語を強く結びつけているのが、やっぱりこのドラマの主人公である美月(波瑠さん)なんだよな。

成瀬の脳外科への転科の話も、普通同僚の医師がここまで他人の気持ちに踏み込んでくることはないはずなんだけど、それが美月であれば、全然不自然じゃない。それは、これまでのエピソードで積み重ねてきた波瑠さんのお芝居にキャラクター表現の深さがあるから。

仕事帰りの朝のベンチで成瀬の話を聞く美月の表情やベンチを立って去って行く成瀬の後ろ姿を見送る、同じ葛藤がそのまま映っているような美月の悲しげな瞳。

オペを中止した成瀬をまっすぐ見つめ、無力さや無念さを抱えながらも、彼への信頼は決して揺るがない澄んだ眼差し。

そして、成瀬が脳外科の後輩・里中から感謝され、戸惑いながらも自分の仕事の意義の実感を噛みしめるシーンでの、感動と喜びを押さえながらの、さすがです、という一言の気持ちのこもった声かけ。成瀬の後を追うときの、伏し目がちに涙で潤む一歩手前のような、思いがあふれ出しそうな笑顔。

波瑠さんのこれらお芝居の素晴らしさ。ビジュアルの超絶美も含め、繰り返し何度も観たくなるシーンが盛りだくさん。

 

波瑠さん演じる美月の救急救命医療、そして同じ夢を持つ仲間への熱い思い、それがこのドラマを単なる医療ドラマ、単なる医師キャラクターそれぞれの成長物語の寄せ集めではない、有機的な人間ドラマとしてのダイナミズムへのチャレンジにしているんだと思う。

そこに、主人公を男性ではなく、あえて女性にして、その主人公に波瑠さんをキャスティングした意味があると思う。

波瑠さんのお芝居を観ている限り、そのチャレンジはかなり見応えがあるものになっている。確かに、ここまではエピソードによってばらつきがあり、台本にはバランスの悪さやプロットのちぐはぐさがないとは言えないけど、演者の芝居によって相当カバーされている部分もあるし、何よりそれが最終的に成功するかどうか、それはこれから残り3話、クライマックスの展開で結果が見えてくるはず。