今回のエピソード主人公は、ナイト・ドクターの二人のポンコツのひとり桜庭(北村匠海)で、なかなか感動的なエピソードだった。

ストーリー自体は、患者の苦悩や葛藤と向き合う中で、迷いから抜け出し、勇気をもって一歩を踏み出す若い医師の成長を描く、という医療ドラマ的には割と(かなり)ベタな展開だけど、でもストーリーそのものよりも、その背後にあるプロット、つまりキャラクターの心情の因果関係や相関関係が秀逸。

 

桜庭は心臓に疾患があって、おそらく臓器移植を受けたのだろう、そういうハンデを負っていることは初回から仄めかされていて、何となく分かっていたけど、彼が救命医療を志す動機ははっきりしていなかったのが、少年時代の強く印象に残った思い出から父親代わりとも言えそうな指導医・本郷(沢村一樹)への憧れがあった、というのは意外な設定だった。

 

患者側のドラマは、くも膜下出血で倒れた父と子の物語。無保険のために治療費が払えず、手術を拒否する父親を前に、どうしようもない現実、しかたがないんだ、と自分に言い聞かせて、諦めようとする息子。

その様子を見て、それで本当にいいのか、周りの人間は様々に言うが、誰も君の人生の責任は負ってくれない、本当の自分の気持ちはどうなんだ、と真正面から問いかける本郷の言葉は、傍らでそれを聞く桜庭の心にも響いている。

父親に生きていてほしい、と切々と訴え、手術への同意を説得する息子の姿に、何か心のしこりから解放されたような桜庭。

そこへ別の患者の容態急変で、桜庭と深澤、ポンコツ二人きりの状況で、救命のため救急医としての試練に迫られる。患者の気道閉塞で、輪状甲状靭帯切開を自分の手で行わなければならない。一刻の猶予もない状況。これまでナイト・ドクターの救命現場で一生懸命ノートをとり、美月が貸してくれた本でも勉強を重ねてきた施術への、初めての挑戦に桜庭の手の震えが止まらない。この緊張感の描写がよい。

そこへ美月が駆けつけて、ためらう桜庭の背中を押す、何のためにここに来たの?という強く、熱い言葉に、迷いがふっきれて、しっかり、すっと冷静にメスを入れ、施術をやり通す。

 

処置後のゆっくりとした時間の中での美月との温かな会話、昨日の桜庭と今日の桜庭は絶対に違うよ、桜庭だって絶対に変われるよ、だってほら、ひとりの人の未来、ちゃんと変えたでしょ、それにじっと思いを噛みしめるような桜庭の表情、このシーンがすごく感動的でぐっとくる。

そして、引き継ぎのカンファレンスのシーン、よくやったと言われ、本郷から肩を叩かれて、幼い頃の思い出が蘇り、僕の心臓が飛び跳ねた、と一筋こぼれる喜びの涙、この喜びも、誰かを救ったこの手も、誰のものでもない僕のものだ、というモノローグに心が震える。

これ、今回のエピソードの初めにあった、自分の体は自分ひとりのものじゃない、という綺麗に聞こえるけど、とても辛い言葉との対照が印象深い。

 

成長とは言うけど、ただ単純な成長物語ではない。医師としての技術やメンタルという、直線的な一方向の量的変化ではなく、環境や状況により、色々な方向に、様々な制約や選択肢のある人生の質的変化、自分を取り巻く運命的なものに対する受容や抵抗、その中から、自分の気持ち=意志というものを強く持ち、しっかりと未来への一歩を選び取る、その難しさと勇気を描いている。

そして、それはキャラクターの一人の努力によるものではなく、周囲の人間の共感によって支えられているということ。桜庭に勇気を与えたのが、本郷であり、また、今回の患者の息子であり、桜庭を励まし、力を添えたのが美月であり、ナイト・ドクターの仲間であった、ということ。

それがこのドラマのコアであり、他のよくある医療ドラマとの大きな違いだと思う。

まあ、中にはネットとかの論評・感想にもあるように、キャラクターの自分語りが目立ったり、説明台詞が多いようにも思うけど、これだけの内容をエピソード1回におさめようと思ったら、しょうがない部分もあるし、なにより役者たちの芝居が不自然さを感じさせないから、まったく問題なし。

 

今回は、桜庭が主人公で本郷との関係が中心のエピソードだったから、波瑠さんのお芝居のシーンはそれほど多くなかったのだけど、やはり、このドラマのテーマとしては、美月がナイト・ドクターの5人をつなぐ架け橋のように、情熱と共感でプロット全体を支えている。

そういう意味で、このドラマが群像劇として、あえて女性を主人公に、しかもその主人公に波瑠さんをキャスティングした、というのがすごく効いていると思った。もちろん、そうして求められる以上の的確さで、感動の波動をしっかりと増幅するような、波瑠さんのお芝居の素晴らしさは言うまでもない。

 

こうして美月を軸にしてナイト・ドクター一人ひとりのエピソードを積み上げていく構成がとても面白い。

来週は、予告だと高岡幸保(岡崎紗絵)のエピソードだけど、女の戦いとか、決裂とか言いながら、これ、ほんとは美月や幸保たちのシスターフッドの物語だとすると、自分がすごく弱いやつ、涙こらえるのがたいへんかも(笑)。