今年初めての待ちに待ったバレエ観劇、新国立劇場で「眠れる森の美女」を観てきた。

観たのは21日のマチネ(昼の部の公演)。主役オーロラ姫は、前回、前々回と同じく、すっかりファンになってしまった木村優里さん。相手役デジレ王子は、怪我のアクシデントで井澤駿さんから急遽交代の奥村康祐さん。最初は、直前のペア変更でちょっと心配だったけど、そんなものはまったく杞憂、主役二人の圧巻で素晴らしいパフォーマンスはもちろん、舞台全体を通して、感動しっぱなし。やっぱりバレエは最高。

 

例によって、公式サイトからの公演紹介。

豪華絢爛、典雅なチャイコフスキーバレエの永遠の傑作
本作品は2014年11月に新国立劇場バレエ団のシーズン開幕を飾り新制作されたグランド・バレエです。古典のスタイルを守りながらも現代的な感覚を活かしたウエイン・イーグリングによる振付、元ダンサーとしてのセンスが光るトゥール・ヴァン・シャイクの洗練された色彩豊かな衣裳、川口直次による格調高く豪華絢爛な美術は「シンプルにして豪華」な舞台として絶賛されました。また、主役級のダンサーが次々とソリストとして登場し、新国立劇場バレエ団ダンサーの層の厚さを実感していただけます。チャイコフスキー作曲の3大バレエの一つとして世界中で愛されている古典の最高傑作で、総合芸術としてのバレエの醍醐味をご堪能ください。

 

紹介文どおりの豪華絢爛な上演。夢を見ているように、次々と繰り広げられる美しい踊りとそれを支え、盛り上げる心地よい音楽。

特に、大好きな木村優里さんは、その魅力がまさにきらめくよう。登場シーンから、オーロラ(曙)の名のとおり、スポットライトがいらないくらい、そこだけ舞台がぱっと明るくなり、美しく成長した少女の初々しい生の喜びがいっぱいに溢れるような踊り、長い手足のなめらかで優美な動き、その豊かな表情の何という可憐さ。ローズ・アダージョ(4人の求婚者との優雅でゆっくりとした踊り)の超絶バランスによる静止ポーズの息を飲むような美しさ。

それが、第二幕の森の幻想シーンでは、どこか憂いを秘めた、高貴で静謐なセンチメンタルな踊りから、王子のキスで百年の眠りから目を覚まし、初めて恋に落ちる、切なくも幸福な瞬間へ至る踊りへの、観る者を引き込み、ファンタジーの世界が現実になったかのように思わせる、見事な表現力。

そして、最後は、オーロラ姫とデジレ王子の結婚式でのグラン・パ・ド・ドゥ、それぞれのバリエーション、そして大団円のコーダから全ダンサーによる壮大なフィナーレ。木村優里さんの華麗で躍動感に満ちた踊りは、ひときわ輝きを増し、宝石の精の踊りに続いて、陳腐な譬えだけど、それこそプラチナやダイヤモンドのように、幸福感と高揚感でまばゆい光を放っている。

 

今回、前回「くるみ割り人形」のクララと金平糖の精、前々回「ドン・キホーテ」のキトリも見事だったけど、このオーロラ姫は、それこそはまり役、ってあまりダンサーの個性や持ち味を枠にはめたりしたくないけど、バレエ鑑賞は初心者ながら、木村優里さんの若々しさ、鮮烈さの「華」というのか、「オーラ」というのか、劇場全体をとりこにし、うっとりと心酔させ、魅了するパフォーマンスには、ただもう絶句。

もちろん、木村さんだけでなく、ペアの相手の奥村さん、準主役リラの精の細田千晶さんのしっとりと優しく包み込むような踊り、敵役カラボスの寺田亜沙子さんの痺れるようにシャープで凄みのある踊り、第三幕のディベルティスマンもフロリナ王女(柴山紗帆さん)と青い鳥(清水渉悟さん)をはじめソリストのダンサーの誰もが素敵なパフォーマンス、そして、何と言っても新国立劇場バレエならではのコール・ド・バレエ(群舞)の完璧な同調性と完成度、特に、第一幕の有名なガーランド・ワルツ(花輪の踊り)と第二幕の森の精の踊りは、しばし我を忘れ、夢見心地になってしまうほど素晴らしかった。

 

今回の上演のウェイン・イーグリングによる振付は、バレエ通の中には好きじゃないという人もいるようだけど、自分はキャラクターの感情描写が丁寧でとても良いと思う。ただの豪華絢爛なだけのおとぎ話ではない、人間ドラマ(というとちょっと大げさだけど)とチャイコフスキーのエモーショナルな音楽とが相まって、バレエという類まれな芸術表現によって、単純なファンタジー以上の感動を呼び起こすことに成功していると思う。

 

ああ、幸せなひとときというのは、なんて短いんだろう。

3時間半という上演時間もあっという間。

でも、主役の木村優里さんは、この日のソワレ(夜の部の公演)で、さらにリラの精を踊ってるというのだから、それはもう驚嘆でしかない。

確かに、惜しむらくは、木村さんのリラの精も観てみたかった、ということ、それと、今回のマチネは自分の好きな渡辺与布さん、池田理沙子さんの出演時間がちょっと短かったことかな。カラボス役は、渡辺与布さんも観たかったなあ。

 

ということで、ぽかぽか天気も良かったし、この上なく幸せな昼下がりだった。

蛇足ながら、このマチネの幕間に、第一幕のバレエの余韻にひたりながら、窓からさす穏やかな陽光に包まれ、劇場内のレストランで飲むシャンパーニュは、これこそ至福(笑)。

 

さて、次回は5月公演の「コッペリア」かな。まだ3か月も先で、待ち遠しいことったら。