はー、よかった、美々先生が幸せなエンディングで。

でも、すごく寂しい。自分の心の中の方は、ぽっかり穴が空いてしまった。

で、実に物足りない、ってのは、ドラマの内容や最終回のストーリーじゃなく、ドラマの放映時間。もっともっと話数がほしい。このとびきり魅力的な主人公・美々先生の喜怒哀楽、恋に対して一生懸命、健気に四苦八苦するキュートな姿をもっともっと観ていたかった。

 

 

最終回のストーリーの流れは、ある程度は予想通り、というかハッピーエンドに向かう予定調和のような展開ではあるんだけど、でも、それは表面的にそう見えるだけで、背景にある美々先生と青林の心の動きの丁寧な描写は、とても味わい深く、見応えがあり、心地よく笑えて(笑)、そして、じんわり感動。

前回のシリアスなエンディングから、家で美々先生一人になっての4秒しか我慢できずに鬱憤爆発、自分にもむかつく、ってその可愛いふくれ面に、あ、やっぱりこれコメディだよね、ちょっとほっとして。

ロビーで青林の帰りを待って自分から謝る美々先生。ここでの二人のやり取り、美々先生の恋する気持ちがあふれ、クリスマス空いてるって聞かれて、空いてます、・・・空いてるに決まってるでしょ、とか、あの二人で食べた屋台のラーメンかぁ、とか、口調のなんて柔らかく、いじらしいこと。唐突に青林の自宅に呼ばれ、泊まる感じって言葉にうろたえて、どぎまぎしてる様子とか、観ているこちらまでこそばゆく(笑)。

結局、美々先生の家デートになって、まったりほのぼのしてたのが、お互い考えてること、言ってることがまたちぐはぐになってきて。

美々先生の心の声、なんかいいなあ、こういうのでいいんだよなあ、何も結婚なんて急がなくても、そうだよ、急ぎすぎたんだよ、も、結婚なんていいや、ってところに、いきなり青林が、いつにしようか、結婚?、結婚しよ、と言ってきて、思わず、ええー?と声が出てしまう(笑)。

で、ここから、傑作なキャベツ論争(笑)。青林の考えすぎと自虐が始まり、誤解を解こう、向き合おう、分かり合おうとすればするほど墓穴を掘ってしまう美々先生(笑)。青林がキスしようというのを、ごまかすのは止めよう、と拒否して、どんどん気まずい展開に。

いや、これほんとは笑うシーンじゃないはずなんだけど、でも、ペーソスとユーモアが絶妙。相手のことがほんとに好きなのに、なかなか言葉がかみ合わない、気持ちが少しずつずれて行ってしまう、じれったいんだけど、しみじみ同情。

青林が帰って、部屋で一人、ベッドで膝を抱えて物思いに沈む美々先生の表情、そのあまりに切なくも美しい瞳にはもう絶句。

でも、この後、美々先生の気持ちを楽にさせてくれたのは、富近先生の言葉、分かり合えなくてもいい、分かり合おうとしたことが大事。単なるアドバイスではなく、富近先生自身の悩みから来てる実感だからこそ、同じ恋愛に悩む美々先生の心にしっかりと共鳴する。

そして、最終話のクライマックスからエンディングへ。クリスマスの夜に部屋で一人悶々とする美々先生のメランコリックな顔つきが、思い立って、二人のSNSでの出会いに立ち返ろうと、すっと真摯な眼差しに変わる。相手を分かることより、自分自身の気持ちをはっきり知ること、それは、たとえ分かり合うことが難しくても、檸檬のことが、青林のことが大好きだということ。ついに、檸檬さん、と呼びかけようとした瞬間、同じ思いの青林からメッセージが届く。

ここからの二人のやり取りがじんわりと心に響く。お互いに包み隠さず、飾らずに自分のありのままの気持ちを伝える。コロナ禍の孤独と焦燥の中で、檸檬に、草モチに、どれだけ支えられ、救われたか、どれだけ大切でかけがえのない存在になっていたか、それがやがて恋となり、今では大好きという気持ちが抑えられないこと。SNSのメッセージを綴る美々先生の優しく、穏やかで温かい心の声。

いやあ、この波瑠さんのお芝居がとても素敵。草モチと檸檬の懐かしい会話の回想から、やがて檸檬=青林への思いがあふれて、語りかけがほとんどモノローグのように聞こえるのだけど、かすかに笑みを浮かべながら、思いのこもった柔らかな声のトーンが素晴らしい。単調になりがちなはずの一人芝居が、むしろどんどん観ている者の心を引き込む。

最後に、どっちが好きかシリーズ、草モチさんと美々ちゃん、という問いかけに、答えを待ってじっとスマホを胸に、窓から夜空を見上げる、ちょうど第1話で寂しさに涙を流した同じシチュエーション、その安らぎと信頼の表情がこの上なく可憐で。青林の答え、どっちも、抱きしめにきたよ、を見て、おせーよ、青林、というおなじみの、だけどしっとりと屈託無い口調に、思わず涙がこみ上げそうになる。

エンディングのキス・シーンは、このドラマらしい、微笑ましくウィットに富んで。

 

最終話は、富近先生と朝鳴部長の互いに強がりを察し合うせつない大人の恋のエピソードやバカップルの心暖まるプロポーズのシーンなど、なかなか思い通りに行かない人と人との心の距離、それが少しずつ近づいていく、ドラマ全体のテーマへつながる描写もとても良かった。青林を励まし、応援し、自分の思いは秘めて、美々先生の幸せを願う五文字の姿とか、美々先生の本当の思いを理解し、それを信頼する岬の姿とか、どのキャラクターもストーリーの流れに沿った、ポジティブな変化もきちんと描かれている。

いやあ、やっぱり波瑠さん主演のドラマに外れはない、ってまた確信が深まった。

 

確かに昨年の「G線」に比べると、ドラマとしての完成度とか、プロットやキャラクター設定、セリフの組み立ての緻密さとか、そういう意味ではいまひとつだったかもしれないけど、だけど、このドラマは、あくまでコメディー、基調は明るく、ポジティブに、そして、脚本や演出の緩さ、というより、それは良い意味での遊びになっていて、ドラマの世界に心ゆくまで没入できる。そういう楽しさがあった。

もちろん、コロナ禍での人と人との心の距離、というテーマ性も特筆すべきだろうし、マスク着用という演出ばかりが注目されがちだけど、恋愛ドラマとしての新機軸も打ち出されている。

恋愛ドラマと言えば、いわゆるシンデレラ・ストーリー、つまり見た目がさえない、身分の低い、心の優しさだけが取り柄の少女が、素敵な王子様と結ばれる、という王道パターンか、あるいは、その逆、かっこ悪い、不細工な、だけど、誠実で男らしい主人公が、絶世の美女のハートを射止めるストーリーとか、でなけりゃ、お互い思いを寄せ合う美男美女のなかなか結ばれない行ったり来たりのすれ違いとか、そんなテンプレな物語がほとんどだけど、このドラマはそのどれでもない。恋愛って、人が人を好きになるって、どういうことなんだろう、って真面目に考えてしまう、普通じゃない出会いをした、普通じゃない男女の物語、でも、それは決して邪道じゃなく、視聴者の感性に強く訴える時代のリアリティーを持っている。

まあ、一般世間受けという意味では、このクールや前クールを含め、テンプレな「普通の恋」を描く恋愛ドラマの方が、視聴率だとか、その方がよいのかもしれないけどね(苦笑)。

 

波瑠さんのお芝居とビジュアルについては、もう言うことなし、どころか、今回もまた自分の想像や期待のはるかに上を行って、もうとにかく舌を巻く、とか、言葉を失うとか、いや、すごい女優のファンになってしまったもんだ(笑)。

単に、コメディエンヌとかの言葉では追いつかない、ここまで笑いにウェイトを置いても、人物表現のリアリティーにまったくブレがなく、しっかりと心情描写で観る者の心を揺り動かしてくる。モノローグも一人芝居も、観れば観るほどはまって、美々先生という抜群にチャーミングなキャラクターがどんどん大好きになっていく。

冒頭にも書いたように、この内容でもっともっとドラマを続けてほしい、とさえ思う。

 

そうそう、ちゃんと書いておかなきゃいけない。相手役の青林風一役、これは松下洸平以外、ちょっと演じられそうな役者が思い当たらない。それほどはまり役。それ以外にも、五文字(間宮翔太朗)、富近先生(江口のりこ)、朝鳴部長(及川光博)、八木原(高橋優斗)、栞(福地桃子)、我孫子(川栄李奈)、岬(渡辺大)、みな素晴らしいキャスティング。もちろん、脚本も、演出も、健康管理室や中庭や美々先生の家のセットも、それにとても心地よくぴったりドラマの気分を盛り上げた劇伴音楽、ひとつだけちょっと違和感のあった主題歌でさえ、最後のシーンでは流れてくるのが待ち遠しくなったし(笑)。

 

最終回は、感想書くのに少し時間がかかったせいで、気がつけばもう年末。

楽しかった素敵なドラマが終わってしまって、寂しい限り、まだ、次作のニュースも何もないし、当分の間は、リモラブの録画観て、波瑠さんの魅力を反芻するとか、しばらく観てなかった過去作品をリピートするとか、年末年始はそんな過ごし方になるかな。

来年も波瑠さん主演の作品がたくさん観られることを願わずにはいられない。