草モチと檸檬のリモラブがついにリアルの世界でも実現したんだけど、美々先生と青林の恋はやっぱり一筋縄ではいかない。なにしろ「普通の恋は邪道」だから(笑)。

 

しかし、本人たちが真面目で真剣なほど、見ている視聴者にとっては笑いが絶えない。

今回は、冒頭のモーニング・デートから、美々先生の寝癖を直そうとする青林のへんてこな手つきとそのイチャコラ(?笑)にときめいてる美々先生のキュートさを観てのくすくす笑いに始まって、ネクタイを直すシーンでの二人の微笑ましくもちぐはぐな距離感とか、焦ってどぎまぎする青林が、できた、と言って全然ネクタイ直ってないとか(笑)。個別健康診断で青林と接するときの毅然とした産業医の顔からの、唐突に意味不明な腹巻争奪戦とか(笑)、白衣の上から腹巻して情けなくカッコ悪くても、やってることがすべて可愛い美々先生のキャラのギャップがもう最高。

でも、富近先生の言葉を受けて、青林としっかり向かい合おうとする美々先生の健気な姿には、何だか胸が熱くなってきて、思わず応援せずにはいられない。大好きな人を失いたくない、という一途な気持ち、その一生懸命な潤んだ眼差しがこの上なく美しい。青林から、SNSは一切使わないで、と言われて、草モチと檸檬としての最後のやり取り、逢いたいです、の言葉に切なさが溢れてくる。

で、今回のクライマックスは、青林を自宅に迎えてのイチャコラ実験(?笑)。青林の肩に恐る恐るちょこんと頭を乗せて固まってる美々先生、うわあ、これスナネコ以上に可愛いじゃん。ベッドに逃げた青林をおいでおいでして、ソファで二人お試しイチャコラも、おっかなびっくりだったり、パニックになりそうだったり、でも、内心嬉しかったり、美々先生の表情がくるくる変わって、観ているこちらも一緒になってどきどき。

そして二人で手をつないで添い寝するエンディング、濃厚接触では全然ないのに、お互いを深く知る、その最初の一歩のようで、美々先生と青林の心の結びつきを象徴して、ありきたりな恋愛描写よりもずっと親密な感情が伝わってくる。とても暖かく、ロマンティックな気分に浸って、幸福感でいっぱい。

 

これ、中高生の初恋のような、うぶなカップル描写という見方をする人もいるかもしれないけど、それとはちょっと違うように思う。中高生の初恋は、恋愛という抽象的な行為、未知の体験それ自体への憧憬や畏怖がその心理のコアにあると思うんだけど、大人同士の恋愛は、行為それ自体ではなく、お互い相手への人間的な関心や魅力、理解や共感、心が通じるかどうか、ともに心の中に空いた穴を埋めることができる相手かどうか、関係をずっと続けていけるかどうか、そういう人格的つながりに向かっての期待や不安が大きな意味を持つ。

美々先生と青林も、行為中心ではなく、お互いの気持ち=人格を大切にする不器用な二人だからこそ、単なる濃厚接触がゴールになることはない。

普通の恋は邪道、というのはまさにそういうこと。

陳腐な恋愛ドラマにありがちな、男はハンターが獲物を追うように女を求めて、女は気まぐれな男の気持ちをつなぎとめるように駆け引きし、恋のライバルや周囲の反対や立場の格差や世間のしがらみなど様々な障害を乗り越え、そうしてお互いに相手を恋愛の対象物としてゲットする。男は「男らしさ」の価値をアピールして強さや頼もしさを発揮し、女は「女らしさ」の価値でそれに応えて男を支える、そんな前時代の恋愛描写にはもう飽き飽き。

青林のような男を恋愛の相手として頼りない、情けない、という視聴者もいるとは思うけど、それこそ相手を「対象物」としか見られない、古臭い前時代の「邪道」にはまった感じ方だと思う。ステレオタイプの男とは違う、共感、思いやり、優しさ、無意味なプライドや嘘やはったりのなさ、そういう青林のキャラクター造形が、このドラマの魅力につながっている。

でも、ま、現実には青林みたいな理想的な男はいないんだけどね(笑)。という意味では、このドラマはあくまでファンタジー。でも、それだからこそ、コロナ禍の背景や設定があったとしても、観ていて安心してどっぷりこの幸福感に満ちた世界に浸りきることができる。また、主人公・美々先生のキャラクターもコメディー要素全開なのが、恋愛描写の切なさや健気さとの見事なギャップでストーリー展開の嘘っぽさを逆に相殺し、主人公への共感や応援を通して、作品への強い感情移入を誘うんだと思う。

 

それにしても、このドラマ、特に今回は、波瑠さんのお芝居のなんとも言えない、言葉には語弊があるかもしれないけど、素晴らしい「コケティッシュさ」は圧巻。これまで出演したドラマで演じた役と比べても、相手に対する恋愛感情の表現が特に濃密。例えば、ソファで美々先生が青林に肩を抱くように迫られるシーンとか、髪をなでる格好で顔に手を添えられるシーンとか、バックハグのシーンとか、あるいは、ベッドに寝転んで美々先生からためらいがちに手を触れそうな瞬間、青林からぐっと手を握られるとか、波瑠さんのお芝居の心の揺れ動きのリアリティーは、観ていて思わず嫉妬、じゃなくって、何だか自分が松下洸平演じる青林と同じポジションになって、波瑠さんと親密なスキンシップをしているかのような、そんな不埒なイメージ(笑)に思わずはまってしまいそうだった。いや、それこそ、邪道の恋だよね、なんかいけない気分になりそう(笑)。反省、反省。

 

さて、とりあえず、今回の美々先生と青林の関係はおおむね順風満帆、少し恐れていたような美々先生を泣かすような展開にはならなかったけど、来週以降、最終回に向けて、何だかちょっと雲行きに不安もあるような次回予告だったし、どうか、この素晴らしいファンタジックなロマンティック・コメディーが幸福な大団円になりますように、そう願わずにいられない。