実に濃い内容だった今回。んー、ほんと面白いドラマだなあ。

面白い、ってのはストーリー展開ではなく、人間関係や心理描写、その複雑な動きの「プロット」が奥深い、ってこと。

それに、ドラマの内容としては、登場人物同士の会話が主体なんだけど、単純な会話劇ではなく、会話の背景や場面設定、会話の中での表情変化など、すごく丁寧で工夫されている。

そして、そういう凝った脚本と演出に、メインキャスト3人(波瑠さん、中川大志、松下由樹)だけじゃなく、眞於(桜井ユキ)や侑人(鈴木伸之)、従妹の晴香(真魚)、理人の同級生の結愛(小西はる)など、当初はドラマの表面的なストーリー同様、地味だなと思った配役のキャストが皆とても良い芝居で応えている。滝沢カレンや小木でさえ、よい味を出してる(笑)。

 

確かにストーリーとしてドラマチックな展開があるわけじゃないけど、人間関係やキャラクターの心の動きの描写は非常に味わい深い。

見方によって多様な解釈ができるので、いろいろなことを考えさせられ、あれこれ想像をめぐらされる。

 

例えば、3人でのコンサートのためのカラオケボックス練習で、也映子と理人がぶつかってしまう場面。元婚約者との復縁が気になる理人が也映子につっかかると、理人と眞於とのその後の関係や結愛との仲を見てもやもやした也映子も、思わずいじけた、つっけんどんな態度をとってしまう。お互いにやきもち、あるいは、お互いに相手との関係が近くなるのも遠くなるのもどちらも怖い、ということなのか。特に、理人は、眞於への情熱を否定したくない、あるいは、自分自身の曖昧さに耐えられないからか、也映子への気持ちを自分でコントロールできない。

也映子は、自分に自信がない、あるいは、他人への過剰な共感の故か、踏み出す一歩がいつも空回りしてしまう。

いや、そうじゃない解釈ももちろん成り立つ。だけど、それがまた面白い。

 

也映子と眞於とのバイオリン教室での、ある意味辛辣で痛い会話のシーンも。

也映子が愚痴めいた心情吐露をしてしまうのも、話し始めたら、どこで辞めたらよいか、分からなくなってしまった感じ。きっかけは、自分と近い眞於への誕生日のお祝い、特に、理人からのメール。嫉妬とひがみ、と言ってしまえば身もふたもないけど、それは眞於の優しさや強さへの甘えでもある。ありのままでつながりたい、どこかで本気の言葉をぶつけてもらいたい、そんな気持ちがあったのかもしれない。理人への言葉と同様、也映子にも、厳しく、だけど優しい、強く響く言葉で応える眞於も、その言葉の裏には強がりと悲しみがある。

 

最後の楽器店での也映子と理人との和解(?)、いや、仕切り直しも、よく練られた、印象に残るエピソードになってる。

理人にとって、眞於への情熱のための手段でしかなかったバイオリンが、それ自体情熱の対象になってきている、ってことは、それは也映子との・・・、というところで余韻を残すのも憎い演出。そして、冒頭からの Someone to Watch Over Me がここで効いてくるってのは、しゃれてるし、心地よい。例によって、泣き上戸の也映子の笑い泣きも、じーんとくる。と、最後の最後で、結愛に出くわして、三者三様の表情の何とも言えない戸惑いがまた絶妙。

 

今回は、前回でちょっとどうかなと思った幸恵パートもしっかり持ち直し。也映子と理人の喧嘩の種となってしまった余計なおしゃべりへの後悔、夫についついきつく当たってしまう心のこわばりへの自己嫌悪、也映子との会話で心が軽くなる解放感の描写。

3人の人間関係がより地に足の着いた、見ごたえのある表現になってきている。

今回のサブタイトルの「ほっとけないって愛ですか」の「愛」が、也映子や理人の言う「人間愛」なのか、そこからはみ出した別の「愛」なのか。

 

このドラマ、原作からかなり離れて、独自の展開になってきているんだけど、原作の良さを生かしながら、そこへさらに多様な人間関係や心理描写を付け加えて、何層にも異なるテイストやフレーバーを重ねた絶品料理になってきているように思う。

解釈の多様性を残しているのも、似たようなドラマにありがちな、作り手にしっかりしたビジョンがなく、描写をあやふやにして視聴者に丸投げってのじゃなく、イマジネーションの余白をあえて大きくとって、薄い素描の輪郭線を繰り返し描くことで次第に明確なビジョンが見えてくるような感覚。

登場人物の心理や言動も、図式的で理に落ちたものとか、1+1=2とか、そういう表面的に分かりやすい、嘘っぽいものとかじゃない。

暇つぶしの娯楽としてドラマを消費するような視聴者とか、単純な白黒はっきりした展開や描写しか味わえない人にはきっと受けが悪いのだろうけど、せっかくのこんな絶品料理を心ゆくまで味わえないなんて、むしろ可哀そうだとさえ思う。

 

そういう意味では、このドラマ、初見では見過ごしている細かい台詞や背景にも唸らされる工夫があるので、何度も繰り返し見るのがベター。

今回は特に凝縮感のある年代物の赤ワインのようなエピソードだったので、観たのは既に3回(笑)。いや、料理と違って、テレビドラマは録画で何回も反芻できるからいいな。

さて、来週は、ストーリー的にも、人間関係にかなり変化が出てきそうな予感。

予告の也映子の「息が出来ない!」だけで、もう涙が出てきそうなんだけど(笑)。