波瑠さんが声の出演をしているCGアニメ映画を観てきた。
波瑠さんが出演していなければ、おそらく観ることはなかったであろう映画だけど、何だか世間の評判では相当な論争の的になっている様子。特に、ドラクエのファンからは酷評の嵐のようで、どんなにひどい出来なのか、恐る恐る観に行ったのだけど。
まあ、全体の感想としては、特にどうということのない、普通の映画かな、という感じ。
なんでこんな騒ぎになるのか、ちっともピンとこない。
で、何より、まず、波瑠さん出演パートだけど(笑)。
いやあ、いい!
相変わらず、なんて素敵なしっとりと艶のある、胸に響く声。
声だけの出演がもったいないくらい、フローラというキャラクターの純粋さ、可愛らしさ、健気さがひしひしと心に染みてくる。キャラクターCGのイメージと波瑠さんのイメージも絶妙にシンクロして、フローラの魅力が画面いっぱいに溢れてる。
自分がリュカだったら、迷わずフローラを選ぶけどな、声だけでも(笑)。
声の出演は、映画では三作目かな、出演を重ねるたびにどんどんよくなってる印象。
テレビドラマでも、「あなたのことはそれほど」とか、「サバイバル・ウエディング」とか、心の声、モノローグの芝居がすごくよかったから、経験を重ねて、ますます芝居の幅と奥行きが広がってきたんだろうな。
自分は、そもそもいわゆる専業の「声優」の演技が好きじゃなくて、テクニック偏重、表情過剰、わざとらしく、嘘っぽいのが苦手なのだけど、波瑠さんの声の芝居は、そういう表面的な演技とは対極だと思ってる。
この映画の全体的な印象もそうだけど、声優よりも俳優中心にしたのは正解。
波瑠さんについて言うと、一般世間では占いババとの二役の評判が良く、どちらかというとフローラより占いババの方が巧いとか言われてるみたいなんだけど、自分はちょっと違う。占いババの方は、やや技巧的で、「声優」っぽい芝居になってるので、フローラの方がずっと良い芝居だと思う。
でも、これ、占いババはフローラが変身している設定なので、その台詞や口調がわざとらしいのはむしろ芝居にマッチしているわけで、そこまで考えてやっているのだとすると、ただ、もう、さすがの一言。
あえて言うと、惜しむらくは、せっかくの波瑠さんの芝居を活かすには、ビアンカとのパートナー選択のエピソードは、もっと掘り下げて、つっこんで描いてほしかった。フローラとリュカ、リュカとビアンカのそれぞれの幼い頃からのエピソード描写をしっかり背景において、リュカの迷いやフローラの切ない心情、限りなく美しい優しさをもっと印象深く、感動的に訴えることができたのにな、とやや残念。
でも、それだと、映画のストーリーの重心が大きくずれてしまって、何の映画か分からなくなるから、やっぱりダメか(笑)。
(さらに欲を言えば、フローラの華麗な戦闘シーンも観たかった(笑))
あと印象的だったのは、CGアニメのキャラクター造形と映像の躍動感。フローラのビジュアルが波瑠さんの声ともあいまって、この上なく魅力的だったのはもちろん、主人公リュカはじめ、ビアンカその他のキャラクターもなかなか良かった。
特に、自分は原作の鳥山明の絵が嫌いなので、鳥山明臭の薄い造形は、非常によかったと思う。
で、最後に、ついでなので(笑)、映画作品としての感想も。
酷評されているエンディングだけど、別にどうということもない、と思う。ラスボスがファンタジー設定の大魔王だろうが、近未来SF設定のコンピュータウィルスだろうが、そこに本質的な違いはない。
VRゲーム設定というのも、メタフィクションというほどのメタフィクションでもない。ゲーム世界のファンタジーも近未来のVRゲームも、いずれもCGアニメのフィクションであることに変わりはなく、物語性もそれぞれもともと希薄なので、内容はほぼ同質で地続き。
二つの要素の接合に違和感はほとんど感じなかった。
その代わり、冒険ファンタジーとしても、メタフィクションとしても、どちらにしても非常に凡庸なものでしかない、というのも正直な感想。
盛り込もうとした要素があちこちばらばらでまとまりがなく、非常に中途半端で散漫な構成になってしまっているんじゃないかな。
自分はドラクエはゲームとしては、昔ファミコンで1~4までとプレステで7をプレイして(5と6はスーパーファミコンを持っていなかったので未プレイ、8はビジュアルの過剰な鳥山明テイストが気持ち悪くて途中リタイア(笑))、それはそれで結構面白くて夢中になってプレイしたけど、ストーリーやキャラクターに思い入れなんてまったくない。RPGとしては、「テイルズ」シリーズの方がずっと好き。
そもそもゲームとしての面白さと、小説や映画のような物語性、テーマ性、あるいは芸術性といったものとはまったく別の次元のものだと思う。
率直に言って、ゲームはやはりゲームであって、物語性やテーマ性というのは、二次的、付随的、ないしは演出上の装飾的な要素でしかなく、そこに映画で訴求するようなレベルのものを期待するのは無理。
そう考えれば、この映画もゲームの映画化、という意味では、まあ、この程度が限界なのだろう。多くを望んでもしかたない。
自分としては、波瑠さんの声の魅力的なフローラのCGアニメが見られただけで十分満足。
付言すれば、この映画の限界は、監督の限界でもあって、やはりこの監督はSFX監督が本職なのだと思う。この監督の過去の作品一覧を見ても、映画作品としての深みは感じられない、観たいと思うような映画は皆無。ゲームのCGアニメ映画化、というのも、まあ、この監督にはそれなりにふさわしい仕事かもしれないし、いろいろな限界を考えれば、この映画もそこそこ上出来な作品なのかもしれないな、と妙に納得もするところではある。