一昨日まで三菱一号館美術館で開催されていた「ルドン―秘密の花園」という展覧会、仕事をさぼって長めの昼休み(笑)に観てきた。

率直な感想として、美術展で久々に感動。めったに観られない作品を鑑賞することができて良かった。

 

オディロン・ルドンの作品は、画集や美術史の本で見てそれなりに知ってはいたが、オリジナルを観るのは初めて。

そもそもどうしてルドン展を見に行こうと思ったかといえば、代表作のひとつである、ギリシア神話の一つ目の巨人を幻想的に描いた作品「キュクロプス」がとても好きだったから。山の背後からぬっと現れたキュクロプスが、草花の中に裸体で横たわる美女ガラティアを優しく見つめているという、暖色のトーンと柔らかな筆致で、神秘的なというか、牧歌的なというか、不思議な魅力のある作品。個人的には、自分の理想とする怪獣映画の原点がここにある、って感じ(笑)。

 

今回の展覧会にこの作品は展示されていなかったけど、代わりにルドンの画集にもほとんど載っていない、初めて観る作品に「キュクロプス」と同様の強いインパクトを感じた。

特に印象に残ったのは、やはり今回の展覧会の目玉である、ドムシー城食堂装飾画。ドムシー男爵の依頼で描かれた、食堂の壁を飾る16枚の大作で、長い間非公開だったという。

この作品の展示室に入ったときは、思わず目を見張り、立ちすくんだ。

一枚一枚の大きな絵の前に立つと、画面の中に引き込まれ、常に何かが動いているような、何かが生成してくる過程のような、その夢のような世界に没入し、我を忘れ、時間を忘れ、うっとりと陶酔感に満たされるような、そんな感覚。

また、これ、画面のサイズがすごく重要。壁一面におよぶ大きさがあって、近づくと視界が覆いつくされ、鮮やかな色彩や筆致も生々しく、ありありと、現実とは別の世界が現出する。やはり、画集の小さな画像ではなく、オリジナルを観なくては、この醍醐味は味わえない。

例えば、その一枚。

 

展示室全体はこのような感じ。

 

何ていうのか、表現が難しいのだけど、どこか日本画と通じるような独特のスタイル。

自然の樹木や草花に魅せられて、自我や個人といった自意識の縛りを脱し、夢中になって対象へ没入し、ひたすら絵を描いているような、画家と絵画とが一体となっているような、そんな感動がある。

これらの作品が装飾画だということも重要なポイント。絵画にとっての「装飾」という言葉の意義をあらためて考えさせられ、一種の「遊び」とでも言うのか、芸術の原点に立ち返るって、こういうことなのかもしれないな、と思った。

で、いつまでもずっと自由な絵の世界に浸っていたい、ってそんなにしてたら、仕事中の昼休み、さすがにまずいだろう(笑)って、後ろ髪ひかれながら展示室を後にしたけど。

 

ルドンは、印象派の画家たちと同じ世代の画家で、世間一般ではモネやルノワールやドガなんかの方が人気があるんだろうけど、同じ自然を描くにしても、まったくアプローチが違う、その精神性の部分で自分は、セザンヌを除く印象派の画家の作品よりも、こちらの方が断然よいな、と思った。

展覧会としては、いわゆる「黒の時代」のリトグラフとかたくさんの作品が展示されていたし、ルドンの絵画については、もっと語るべきこともあるんだろうけど、作家個人への関心や分析、評価というよりは、眼前の作品に対する感動の方が重要なので、これ以上のことは書かないでおく。

ま、めったに観る機会がない画家だから、次回はいつになるか分からないけど、また作品に接することができたら、それは嬉しい限り。