19世紀の興行師P・T・バーナムの半生を描いたミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」。

いや、悪くない映画だと思うよ。単純な映画だけど、こういうの決して嫌いではない。

ま、一般的には、観客の評判は上々で、批評家からの受けはいまひとつ、ってのも、分からなくはない。

誤解をおそれずに言うなら、ミュージカルって結局はエンターテインメントなんだから、上映中のそのひと時を楽しめればそれでもう十分OK。内容やテーマについて、とやかく批評するのはお門違い、だと思う。

 

とにかく、音楽とダンスだけなら、ミュージカル映画として申し分なし。

「ラ・ラ・ランド」も良かったけど、同じベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビは、今一番油が乗ってるんじゃないかな。この映画での一番のヒット「THIS IS ME」以外にも、ダンス・パフォーマンスとぴったりの乗りの良い曲が満載。映画を観終わった後も、頭の中で音楽が映像と一緒になってずっとリフレインしてる(笑)。最近FMとかでもずっと流れっぱなしだし(笑)。

また、ヒュー・ジャックマンもザック・エフロンも、生き生きと表現力に満ちた歌唱とパフォーマンスは好印象。特に、ヒュー・ジャックマンは、あとでちょっと書くけど、個人的に「レ・ミゼラブル」よりもこっちの方が良いと思う。(X-MENとかマーベル映画は一切観ないので、そっちは全然分からないけど(笑))。

あと、空中ブランコ乗りのアンを演じたゼンデイヤもなかなか魅力的だった。

 

ストーリーとしては、興行師としての成功を求めるバーナム(ヒュー・ジャックマン)が、いつか初心を忘れて名声とセレブの世界に引き込まれ、妻子やサーカスの仲間から心が離れていってしまい、興行失敗による経営破綻・挫折から、仲間を含む「家族」の支えによって立ち直る、という、もうサクセス・ストーリーを絵に描いたような展開。

ありきたりと言えば、ありきたり。陳腐と言えば、陳腐。

でも、展開が読めるから安心して歌とダンスの世界に浸っていられるし、期待通りの予定調和で爽快感とカタルシスがある。

物語のテンポも非常に良い。てか、テンポ良すぎて、誰かの歌が始まって、唄っているとあっという間に話がどんどん進んでしまうのは、いささか軽すぎ(?笑)。

 

逆に、テーマやメッセージとか、そういうことを言ってもしょうがない。

19世紀のフリーク・ショーの実態が「家族」や「共同体」として、道徳的にポジティブなものと断言できるのか。マイノリティーに対する差別問題として、このような描写が果たして妥当なのか。そもそも史実として、バーナムという人物の事績・言動として正確なのか。

そんなことは、正直言って、どーでもよい。

この映画を観て、マイノリティーに対する差別問題について、何かを考えるなどということ自体が間違っている。それとこれとはまったく話が別。(まあ、たまたま最近、「スリー・ビルボード」とか、「シェイプ・オブ・ウォーター」とか、そういう業界ムードはあるのかもしれないけど。)

この映画を楽しむこととバーナムという人物やそのサーカス事業を歴史上どのように位置づけるかということとは、完全に切り離されるべきだし、多くの観客にとって、実際それはまったくの別問題になっている。普通の観客だって、この映画を観てそこらの問題をごっちゃにするほど、そこまで愚かではないはず。

 

対照的な映画かもしれないのは、同じヒュー・ジャックマン主演の「レ・ミゼラブル」。

これ、おそらく批評家の評価としては、この「グレイテスト・ショーマン」よりもずっと高いのだと思う。

が、自分は個人的にあまり好きな映画じゃない。ミュージカル映画としての娯楽性とヴィクトル・ユーゴー原作の文学性・ドラマ性とのバランスが不均衡で不安定。結果として、歌も楽しめず、ドラマの内容にも感情移入できない。本来のテーマの深い洞察がかなり浅薄な印象の、非常に中途半端な作品になってしまっている。

もともとの舞台は観ていないので、また全然違うのかもしれないけど、作品の魅力の大半はユーゴーの原作に依存しているのだから、歌ははっきり言って余計。歌なしでドラマ作りだけに集中してほしかったと思ってしまう。あえて言うなら、歌で感動的だったのは、ファンティーヌのパートだけ。これは彼女の孤独と悲しみが歌という表現にたまたまフィットしたからだと思う。(演じたアン・ハサウェイの芝居もすごく印象的だったけど。)

 

ということで、あくまで個人的な趣味の問題で、また、毎度のことで、えらそうな批評とかじゃなく、単なる感想にしかすぎないけど、この映画、ミュージカルとして、娯楽作品として、なかなかじゃないのかな。

ただ、確かにドラマ性は希薄なので、見終わって心に残るインパクトとか、そーゆーのはほとんど何もないんだけど(笑)。ま、楽しければ、面白ければ、それで良し。

そういう映画も十分ありだと思ってる。