今回はじっと見入ってしまうほんとに見応えのある話だった。
このままじゃいけない、あたしにとっても、ママにとっても、という思い詰めた気持ちで、ついに一歩を踏み出し、家を出る美月。礼美を励ます、諦めちゃだめだよ、って言葉が、自分に言い聞かせている、という決意が切々と伝わってくる。その直後、新築の自分の家を訪れ、この部屋には住まない、と松島に告げるときの切ない表情。
人形とクマのぬいぐるみのエピソードに込められた想い。荷物を詰め込んで車に乗り、家のベランダに顕子の幻を見る美月の、不安と後ろめたさと寂しさ。人形展で顕子に会って、ごめんね、と言い、後ろを振り返らず、松島の家へ向かう。思わず、はらはらどきどき、心の中でずっと、みっちゃん、頑張れ、頑張れ、って言わずに見ていられなかった。
松島の家で顕子のことを思って、心配と罪悪感で心が沈んでしまう美月。美月を一生懸命支えようとする松島との食事シーンでは、徐々に安らぎが訪れて、眼がうるんでくる、その感情の揺れ動きに、観ているこちらの心もぐらぐら。
顕子の芝居は、いわば表と裏、美月への愛と満たされぬ自分の心とのバランスが狂って、自分をコントロールできなくなる怖ろしさ。他方、美月のお芝居は、二律背反、顕子への想いと自分の本当の気持ちとの間で引き裂かれそうな、それでも必死に前へ進もうともがく真摯さ。
松島が美月に惹かれるのも、単に可愛いとか守ってあげたいとかじゃなく、その真摯さや健気さを心から受け止めたいという想いではないか。
父の浩司も、現実を見て見ぬふりするのをやめて、正面から問題に対峙しようとし始めた。
単にホラーでドロドロした昼ドラ系ドラマなんかじゃなく、松島との二人のシーンも、サスペンスのインターバルにほっこり、胸キュンとかいう、そんなことじゃない。
 
最後のシーン、普通のドラマなら、娘が家を出て、それで親は諦めるんだけど、顕子は決して諦めず、どんな手を使ってでも美月を取り戻そうとする。普通じゃない展開だけど、でも、顕子がそういう驚愕の行動に出るのは、視聴者もうすうす想像している。大切なのは、ここでの美月のリアクション。ここで気持ちが萎えずに、眼を大きく見開きながら、そうだよ、ママ、あたしママを裏切ったの、と声を絞り出す。このシーンが圧巻。顕子の言動に対して、驚きと怖れとともに、憤りと悲しみの入り混じった美月の表情。今後の母娘の感情的な対立を予感させる。ここで、次回につづくってのも上手いなあ。
 
このドラマの制作発表があったとき、「人形の家」や「ガラスの動物園」を引き合いに出したけど、思った以上に、オーソドックスで古典的な「リアリズム」スタイルのドラマだと思う。
自分の意志で行動を起こす主人公とそれを取り巻く様々な障害。テーマは、現代の家族における母と娘の精神的な相互依存関係ということだけど、その問題の構造や因果関係がストーリーに沿ってはっきりしてくる展開。キャラクター設定や人間関係や心理の動き方などプロットもしっかり作りこまれている。脚本だけじゃなく、演出も、それに応えるキャストの芝居もすごく良い。登場人物もエピソードもテーマにとっての必要最小限で、余計なサブキャラやサブストーリーはない。学校での礼美との関係も文恵の人形教室も浩司の職場の描写もすべて意味がある。
問題を正面から取り上げ、社会や人間のあり方を問い、結末は必ずしもハッピーエンドでないとしても、世界は変えられるんだ、というメッセージを強く訴える、そういう本格的な「リアリズム」のドラマって、実は最近すごく少ないように思う。
そういう意味では、このドラマって、とても希少ではないか。
波瑠さんも、見かけ以上にほんと良い役をもらってる。
来週以降もますます目が離せない。