以前「ON」の感想を書いたとき、刑事ドラマはほとんど見ないと言った。

刑事ドラマや推理ドラマは、人間ドラマとして内容の薄いものが多いと思うからだ。作り手も視聴者も、主な関心はストーリー展開や謎解きの面白さにばかり集中してしまって、キャラクターの内面や人間性、変化や成長、登場人物同士の確執・葛藤・愛憎を深くしっかりと描くという本来のドラマの本質部分が非常に少ない。キャラクターは、刑事(探偵)と犯人以外、だいたい紋切り型の平板キャラか物語の説明のためのご都合キャラばかりで、ストーリー展開や謎解きに奉仕するだけの「道具」になってしまいがち。

 

例えば、この秋クールでも放映されている刑事ドラマ「相棒」。もうシーズン15にもなるそうで、誰もが知っていて、相変わらずの高視聴率番組ではあるものの、自分は波瑠さんがゲスト出演した一回しか見たことがない。2013年の正月スペシャルで、波瑠さんの役柄は、祖父から承継した旧華族の隠し財産の秘密によって謎の人物たちから執拗につけ狙われたり脅迫されたりする、地方の没落した名家のお嬢様という、一種の「被害者」かな。

波瑠さんのブログでは、このドラマのキャストやスタッフの意識の高さを感じて、追い詰められてるみたいでついて行くのに必死だった、と書かれてたけど、ま、ある意味無理もないよなあ。波瑠さんの演じた茜という役は、キャラ設定がすごく中途半端で、行動の動機や心理がストーリー進行の都合に沿ってるだけみたいになってて、ドラマの中心である刑事役とかレギュラー出演者とはキャストのポジションが違いすぎる。右京と享の背後での傍観シーンとか説明台詞とかがやたら多いし。この手のドラマでは、万一思うようなお芝居ができないとしても、当然と言えば当然。

はっきり言って、波瑠さんの無駄遣いじゃなかったかなあ。

 

あと、波瑠さん出演の推理ドラマでは、東野圭吾ミステリ-ズの「小さな故意の物語」とか金田一少年の事件簿の「獄門塾殺人事件」とかもあって、いずれも犯人役なので重要なポジションではあるけど、波瑠さんの魅力が十分に生かされてるかというと、それは疑問。やはりミステリーとしてのプロットがどうしても優先するので、犯人であることを途中でばらすことができないし、何故そんな動機でそんな犯行を?という素朴な疑問が残りがち。だから、脚本上の内面描写も感情表現も、すごく淡泊で希薄だったり、大袈裟で不自然だったりする。

いや、両作とも波瑠さんのお芝居はすごく良いんだよ。犯人役ってクライマックスでいきなり集中的に本格的な出番(いわゆる断崖絶壁シーン(笑))になるんだけど、ここでの波瑠さんの告白台詞の切実さや泣きのお芝居はほんと感涙ものだし、どちらの作品も悲しい女子高生役のビジュアルが最高に美しいし。

逆に、波瑠さんのお芝居が素晴らしい分だけもったいない、と感じてしまう。ま、そこはやはり贔屓目だから、謎解きじゃなく、最初から犯人役の波瑠さんを主人公にして脚本を書いてたら、もっと全然異質な深みのある人間ドラマになったのに、とか無茶なことを思ってしまう。

(ちなみに、まったくの余談なんだけど、相棒スペシャルでも獄門塾殺人事件でもまったく同じあるあるパターンで、クライマックスでは波瑠さんが喉元にナイフをつきつけられて人質にされるんだけど、前者では助ける側の刑事役だった成宮寛貴が、後者では逆にナイフをつきつける犯人役って、ちょっと笑える。)

また、「ON」が良かったのは、前にも書いたけど、謎解きよりも主人公の刑事・比奈子の人間ドラマをあえて中心においたところだよね。中島医師や東海林刑事や各回の犯人とのやり取りも印象深く感動的だったし。普通の謎解き刑事ドラマにせずキャラクター重視で、波瑠さんのお芝居の魅力を活かすことができたから大正解だと思う。

 

刑事ドラマでも犯人当ての謎解きをなくして、最初から犯人を明かしてしまうプロットのドラマもある。いわゆる「倒叙法」という脚本の構成だ。代表的なのは、ベタだけどやはり「刑事コロンボ」だろう。うん、これは非常に面白いドラマで大好きな作品。内容は決して深い人間ドラマって訳じゃないけど、犯人が最初から分かっているので、キャラクターの内面描写や感情表現に制約がなく、刑事・探偵とのやり取りや駆け引き、葛藤や確執などでキャストの芝居の魅力を満喫できる。やはり、キャラクターに厚みやリアリティーがないと、ドラマは面白くならないってこと。

本格ミステリーファンに言わせると、倒叙法はワンパターンのマンネリに陥りやすく、推理ドラマとしての魅力は限定的、ということだそうだけど、果たしてそうだろうか。そういう考え方は、ドラマとしての面白味ではなくて、クイズとかパズルとか知的ゲームを楽しむマニアックな視点でしかないと思う。

倒叙法の良い点は、どうやって犯行が明るみに出るのか、犯人の心理はどのように揺れ動くのか、そのプロセスに緊張感が生まれ、サスペンスとしての醍醐味が生まれること。ときには、そのサスペンスを通じて、深い人間性への洞察が描かれることもある。古典文学で言うなら、ギリシア悲劇の最高傑作「オイディプス王」やシェイクスピアの「マクベス」、ドストエフスキーの小説「罪と罰」などもこの倒叙法の効果が非常によく生かされている。

でも、んー、「古畑任三郎」になると、キャラクターや脚本のくせが強すぎて、犯人役も古畑に面白おかしくいじられるだけの「小物」って感じで小ネタや笑い優先、倒叙法の効果も限定的な、軽過ぎてあまり好きなテイストではなくなっちゃうんだけどね(笑)

 

てな感じで、普通の謎解き主体の刑事ドラマや推理ドラマはあまり好きになれないんだけど、ごくまれには例外もある。

最近すごく気に入ったのは、NHK-BSで放映した英BBC制作の「刑事フォイル」。第二次世界大戦下のイギリスの地方都市を舞台に、戦争という公的な殺人が常態となっている一種異常な世界で、「普通の」犯罪に対して真剣な追及を行い、普通の「正義」を求めるベテラン刑事の姿を描いたストーリー。戦争と犯罪を対比させつつ、正義とは何か、極限状態における人間性とは何か、深い問いかけのあるドラマ。

オーソドックスな謎解き構成によるドラマではあるけど、犯人以外の被害者や容疑者や目撃者なども登場人物が皆すごく丁寧に描かれていて、人間ドラマとしても十分見応えがある。他方で、謎解き自体がドラマの主目的ではないように思うけど、謎が明かされる過程やテーマに沿った真実の意外性が面白いし、主人公とサブキャラもすごく魅力的な人物として個性的に描かれている。時間と制作費を相当かけているから、背景・舞台のリアリティーや映像・演出の緻密さもほとんど映画レベル。テーマの深みと一貫性がこれだけのドラマの原動力となっているのだと思う。

こういう刑事ドラマを日本でも作れないのかな。ま、期待薄だろうなあ。

この作品は、NHK-BSでは全エピソードの前半までで中断してしまっているので、既に告知されてる来年1月の後半再開が今からすごく楽しみ。

波瑠さんの新ドラマとほぼ同時期に始まるので、早く来い来いお正月って感じかな(笑)