赤と同じく、いやそれ以上にピンクは子供時代から「不可能」な色だった。
女性ならピンクが好き、似合うということは決してない。
探してみればわかる。
男性でピンクが好き、似合う人もいる。
以前、自他ともに「頑固な職人」を認める五十代の男性が身近にいて、にこりともしないことの方が多かったけれど、なぜかパステルピンクのシャツを着ていることがあり、これが意外に似合うのだった。ピンクのシャツと、その人がたまに見せる素朴な笑顔はセットで記憶に残る。

紆余曲折を経て、かなり遅ればせながら、ピンクを着られるようになったが、やはり難しい色だ。これから年を重ねてますます難しくなるか、より似合うかはわからない。後者を目指したい。

遠い或る春、千鳥ヶ淵の夜桜を見に行く時に選んだソフトピンクのストールは、一緒に見る人への私の想いを映していた。じっと見て― 何秒とははかれない、腕時計のリズムとは違う時間の後、桜色だね、と呟いた。ピンクは似合わないから、と照れて言うと、すごく似合ってるよ、と重ねた。その人は、いつか私の人生から消えてしまった。けれど桜とストールの幻想的なピンク色と、それを見つめていた私たちの眼差しは、たぶん一生心から消えない。

ピンク色の服を着なくても、シンプルな服を着ていても、ピンク色の空気を発している女性に出逢えたら、嬉しい。それは彼女の内から出る色。

ふと、思う。
その夜の私も、ピンクのストールを纏っていなくても、そんな色を発していたのではないか。
やはり色に並々ならぬ感性を持っていたその人は、それを見たのだろう。

(使用画材: パステル、黒の紙)