自己理解を深めようとするとき、私たちは他人の経験やアドバイスを参考にしようとします。しかし、どんなに立派な意見でも、自分とはタイプの違う人の話はあまり響かないことがあります。これは単なる「好み」ではないと思っています。
心理学者カール・ロジャーズは、人が成長するためには「共感的理解(empathic understanding)」が必要だと述べています。自分の内面を安全に見つめるには、「自分と似た感覚で世界を見ている誰か」との共鳴が不可欠なのです。逆に、自分の感じ方や価値観があまりに異なる人の体験談を聞いても、それは頭で理解できても、心で納得することが難しいのです。
また、ユング心理学では、人にはそれぞれ異なる「タイプ(心理的機能)」があるとされています。たとえば、直感型の人は感情よりもひらめきや意味の流れを重視し、感情型の人は人間関係の調和や気持ちのつながりを大切にします。このように心理的な構造が異なると、同じテーマを語っていても受け取り方がまるで違います。「何が癒しになるか」「何が理解につながるか」はタイプによって異なるのです。
そのため、自分の内面を深く見つめたいときには、似たタイプの人の経験や言葉に触れることが最も有効です。心理学者ドナルド・ウィニコットは「真の自己(true self)」という概念を提唱しました。これは、他者の期待や理想ではなく、自分の感覚に根ざした本来のあり方です。内観の過程では、この「真の自己」とのつながりを取り戻すことが目的ですが、そのためには「自分の内的リズム」に合う他者の声が必要になります。
同じような気質や経験を持つ人の話には、ただ共感する以上の力があります。「自分だけじゃなかった」と安心できることで、心の緊張が少しずつほぐれ、孤独や不安が和らぎます。「なぜ自分だけが」という心理状態の時はものすごく孤立や孤独を感じます。そこから「自分だけではなかった」と解放されたとき、前を向く力や、自分を受け入れる余裕が生まれます。
その人がどのように悩みや苦しみを受け止め、少しずつ乗り越えていったかという過程は、自分自身の歩みを考えるうえで大きな参考になります。他者の体験を知ることは、単なる情報ではなく、自分の心を見つめ直すヒントとなり、回復や成長の道しるべにもなります。