ある日ある時気が付いて
帰り道の闇の中で
その濃厚な香りに
立ちどまる
一瞬どうしようか迷い
結局とおりすぎてゆく
次の日きまって香りは
薄くなっている
だから決まって毎年思う
昨日が一年に一度の
「金木犀の日」だったのだ
確かに立ちどまったのに
そのままつかまえることもなく
見逃したものの正体を
目を細めて確かめている
金木犀の日の次の日
毎年 毎年 毎年の
金木犀の日の次の日を
積み重ねてきたわたしだが
輝くたった一日に
その輝きに手をそめて
チャンスをつかむ日もこよう
残り少ない金色を
ふりまき散ってゆく花の
金と金とのかろやかに
ぶつかる音を聴きながら
いつかと思いみあげれば
遠ざかる青すぎる空