光さんが、「この後のことなんて、俺は知るか!」と放棄したので、話は蓮視点に代わります。

そして時間はほんの少し戻ります。




8




ラブミー部のドアをノックしようとした寸前、中の男の声に気づいた。

「・・・・・・好きだよ。」

そう言った男の声に、

「ありがとうございます。」と答える彼女の声。




驚いた俺は中に入ることもできず、いけないとは思いつつそのまま聞き耳をたててしまった。

おかげで彼だけでなく、不破やレイノとかいうストーカー男にまで、先を越されてしまったということがわかった。


焦燥感に握った手が震える。




中の彼の話は、彼女が誰かに恋をしているという、俺には更に衝撃的な内容になっていて・・・。

「・・・京子ちゃんが幸せになることが、俺にとってはそれが一番なんだ。」

そう言って、彼は潔く自分の想いにピリオドを打った。






彼が出てくる気配に、俺はとっさに身体を引いた。




ドアを開けて出てきた彼は、わかっていたように、横の壁に身を預けていた俺を見た。

グレイトフルパーティーであいさつを交わしたブリッジロックという三人グループの一人だった。

「今度会う時に京子ちゃんがフリーだったら、もう引きませんから。」




まっすぐに、射抜くように見つめられて、俺は腕組みを解き、誠実に頭を下げた。

彼はふっと笑って、俺の肩を軽く叩き去って行った。




同じ歳だという小柄な彼の背中が、俺よりも遥かに大きく見えた。






俺は彼のように、彼女の幸せを考えて身を引くことができるだろうか・・・。 

彼女を誰かに渡す・・・想像しただけで喪失感で絶望に苛まれる。

もしかしたら、こんな俺よりも、彼女の幸せを優先に考えることができる彼の方がよっぽど彼女を愛しているのかもしれない。

だけど・・・。






俺は、心を決めて、ラブミー部のドアをノックした。

返事を待ち、ドアを開けると、俺を見た彼女の顔がこれ以上ないくらいに紅く染まった。

その夢のような反応に勇気をもらって、俺は彼女に想いを告げる。




驚きのあまりに、両手で口元を覆った彼女のその手首には俺が昨夜贈ったブレスレットが揺れている。




しばらくのち・・・俺にとっては永遠とも思える沈黙のあと、彼女は小さく頷いた。

想いのたけを込めて、力いっぱい彼女を抱きしめると、彼女の手がおずおずと俺の背に回る。

そのぬくもりに、俺はやっと、彼女を手に入れることができたと実感した。






もし、俺を選ぶことが君の本当の幸せじゃないのだとしても、俺には君をほかの誰かに託すなんてことはできない。

そのかわり、俺は全身全霊をかけて、君のことを幸せにすると誓う。

だから、俺を幸せにして。

君が傍にいてくれることだけが俺を幸せにしてくれるんだ・・・。




                  Fin.