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にこにこと微笑む京子ちゃんを見て、俺は決心をした。




「俺ね、京子ちゃんの事、好きだよ。」

「ありがとうございます。」

照れながらも、崩れない笑顔に、先輩としか見られてないという事実をまざまざと教えられる。




「後輩としてじゃなくて、恋愛対象としてって意味だよ。」

瞬時に京子ちゃんの微笑は凍りついた。 あからさまな変化に苦笑するしかない。




「突然でびっくりするよね。 まあ、昨日の今日だし。 でもね、冗談でもからかいでもない。 できれば京子ちゃんの恋人になりたい。 


これは余計だけど、不破くんとレイノくんが言った好きもそういう意味だよ。」

「・・・そんなの――」

「わかるよ。 同じ想いだから。 でなきゃあんな人前でなりふり構わず告白なんかできないよ。 彼らだってトップアーティストだっていうプライドがあるんだから。」

京子ちゃんはうつむいて黙ってしまった。




「京子ちゃんには迷惑かもしれないけど、これは俺のエゴなんだけど、言わずに終わることはできなかった。」

終わるという言葉に引っかかったのか、京子ちゃんは顔をあげた。

「光さん?」




「詳しい事はよく分からなかったけど、不破くんと何かあって、京子ちゃんは恋愛を避けているんだよね? でも、レイノくんの言ったようにそれはよくないよ。 だって、京子ちゃんは自分で気づいていないようだけどね、君はちゃんと恋をしていると思う。」

「・・・そんな――」




愕然とした京子ちゃんは、無意識にだろう、手首のブレスレットに視線をおとした。




「恋をしてると言われて、今誰かを想い描いたよね。 それが答えなんだよ。 京子ちゃんも好きな人への想いをちゃんと大切にしてほしいんだ。」

「私の想い?」

「うん。 せっかく芽生えた想いを恋愛拒否なんて言って枯らしてしまったら可哀そうだよ。 俺もね、ちゃんと告白して京子ちゃんの返事を確認しないと、前に進めないからね。 たとえ報われないとしても、俺が京子ちゃんを好きで恋人になれたらいいな、と思ってるのは変わらない。 京子ちゃんがだめだっていっても、自分でも想いを変えることは難しいんだよ。 だから、京子ちゃんは京子ちゃんが好きだと想う人を想い続けていいんだよ。 京子ちゃんが幸せになることが、俺にとってはそれが一番なんだ。 もちろん、俺がその相手なら言うことはないんだけど・・・。」




――君が幸せならそれでいい。

それが俺の愛だから。






京子ちゃんは気づいてないけど、話の途中からドアの向こうに息をひそめた、人の気配がする。

自分から動かないと、誰かに攫われるかもしれないって思いを味わえばいい。

女の子からアピールされて当たり前なんて思っているんだったら、京子ちゃん相手じゃ一生無理だ。

俺は心の中で、外で様子をうかがっていると思われる同じ歳の背の高いナンバーワン俳優に、少し意地悪な思いを抱いた。






「雄生たちが待ってるから、俺行くね。 来週またTBMでね。」




部屋を出ると、ドアの横の壁に思い描いた通りの俳優がもたれていた。

「今度会う時に京子ちゃんがフリーだったら、もう引きませんから。」




頭を下げる長身の彼の肩を軽く叩いたことで、俺はちょっと気分が上がった。


芸能界一イイオトコに勝ちを譲ってやったんだ。

そうでも思わないとやってられないって。




ちくしょう! 失恋だー!!

この後のことなんて、俺は知るか!