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京子ちゃんが乗った隣のエレベーターで地下駐車場へ降りると、走っていく京子ちゃんの後ろ姿が見えた。

不破くんと一緒にそっと近づいていくと、京子ちゃんは運転席から降り立った長身の男性に頭を下げているところだった。




「お待たせしてしまって本当にすみません。」

「そんなには待ってないよ。 どうした? 顔色が悪い。」

彼は京子ちゃんの頬をそぉっと撫でたあと、彼女の腰を抱くと、優雅に助手席にエスコートした。

「大丈夫です。 何でもないです。」

京子ちゃんは頬を染めて彼に応えた。




――ああ、そうなんだ。 

俺はその瞬間にわかってしまった。 

俺にわかったということはたぶん、不破くんにもわかっただろう。




「行こうか。 今夜の食事は何を作ってくれるのか楽しみだ。」

思わせぶりな会話のその後は、ドアが閉まったせいで聞こえなくなり、二人が乗った車はすぐに行ってしまった。




「敦賀蓮のヤロー! くそ!! キョーコを手なずけやがって、汚ねえぞ、あのヤロー。」

不破くんは地団太を踏んで悔しがっている。




「勝てそうにないなあ・・・。」

ついポロリと声が出てしまった。

不破くんは、俺に初めて気づいたように驚愕した。

おい、人を巻き込んでおいてひどいぞ、君。




「あー、えと、石橋さんは、キョーコとどういう関係なんですかね?」

「一応、共演者? 事務所一緒だし。 俺らバレンタインにチョコもらったんで、ホワイトデーのお返しを右代表で届けに行っただけなんだけど・・・。なんか、わけわかんないうちに巻き込まれて?」

「別にキョーコのこと狙ってるとかそういうんじゃないですよね? あいつはほら、壊滅的に恋愛関係の機微とか分んない奴なんで、アプローチとかしても無駄ですから。」 

遠慮がちながらも、軽く俺を牽制しつつ、探るような視線を向けてくる。




俺、狙ってないわけじゃないんだけどね・・・。

君やレイノくんみたいに強引に迫っても、難攻不落ってわけなんだ?

俺のささやかなアピールでは、届くわけがないってことか。

まあ、眼の前であんなにはっきりと二人のトップアーティストに告白なんかされたんじゃなあ・・・。




それに、敦賀さんと京子ちゃん。 

あんな顔して二人の世界を作っちゃってるんじゃ、俺だけじゃなくて不破くんもレイノくんも誰も勝てないんじゃないかな。