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「あんたたちのもめ事に私を巻き込まないで!」

京子ちゃんの言葉に、不破くんもレイノくんも、もちろん俺も黙り込んだ。

これは、確かに彼らのもめ事だけど、原因は彼女なんじゃ・・・?

もしかして、京子ちゃんって・・・何人もの男を手玉に取る悪女、とか? 

俺はあの階段から落ちた時の表情を思い出した。

あんな彼女の誘惑だったらトップアーティストの彼らがふらふらと吸い寄せられても仕方ない。

いや、俺だったらいつもの京子ちゃんでも、誘われたら・・・。




俺が自分の妄想に向き合っているうちに、レイノくんはどんどん話を進めて行く。

「キョーコ、お前が不破のせいで恋愛に向ける思考が壊死しているのはわかっている。 だが、お前がそうやって恋愛を厭い続ける限り、お前の中から不破は消えない。 それでは不破の思うつぼだぞ。 それよりもあっさり消し去ってしまった方がよっぽど復讐になると思わないか?」

「何勝手なこと言ってんだ。 だいたい俺とキョーコのことをすっかりわかったように言いやがって。」

「わかっている。 お前たちから見えたからな。 第一お前たちみたいに自分からは何も言えない癖に独占欲だけ振りまわす男たちに言われたくはないな。」

「たちって言うな! 俺は一人だ!」




って、そこ? 不破くんは変なとこが気にかかるんだな。

でも、レイノくんの言葉に、京子ちゃんの眼は迷ったような色を浮かべていた。




「キョーコ、バレンタインの前日にも言ったが、俺はお前が好きだ。 お前に釣り合う男はこの世で俺だけだ。 俺がお前をこの世界で一番輝く女に磨き上げてやる。」

「いい加減にしろ! ストーカーのくせに。 キョーコ、こんな奴の言うことなんか真に受けるな。 お前は俺のモノなんだ。 今までも、これからもずっと。」

「だからそれは歪んだ独占欲だと言っている。 お前だって俺に同じことを言っただろう? だが、俺はあれから考えを変えた。 こんなに俺の心を動かすことができるのはキョーコだけだ。 何度でも言おう。 俺はキョーコが好きだ。」

「・・・俺だって、キョーコが好きだ! 凹んだ時、俺をやる気にさせてくれるのはキョーコだけだ。 昔みたいな言うなりなキョーコじゃない。 今のキョーコが好きなんだ。」

レイノくんの挑発に乗った不破くんの、心を絞り出すような告白に、京子ちゃんは絶句したまま立ち尽くしていた。

そして、俺はそんな緊迫した空間から抜け出すことはおろか、存在を主張することすらできなくなっていた。




本当は、食事に誘って家まで送っていい雰囲気になったところで、と思っていたのに、こんな風に彼らに先を越されたんじゃ、とてもじゃないけど俺まで告白しても、京子ちゃんのパニックに拍車がかかるだけなんじゃないかと、俺は今夜のプランはもうあきらめるしかないな、と思った。