2、 蓮
引き取られた時、中学生になったばかりだった俺は、
平日は学校と彼女の家庭教師のほか、家の雑事を手伝い、
土日は旦那様について、会社や人付き合いなど
学校では教えてくれない事を学んだ。
資産家の割に、質素な暮らしを好んだ夫妻は、
使用人をほとんど置いていなかった。
奥様が子どものころから仕えているという執事とメイドの夫婦・・・じいやとばあやという感じだろうか・・・のみで、後は俺だけ。
(旦那様と奥様にはそれぞれ秘書がいるが、彼らは通いだった。)
じいやさんとばあやさんも、やはり子どもに恵まれなかったそうで、
彼女のみならず、俺まで可愛がってくれた。
庭仕事や、大工仕事などは任せてもらったが、
俺はあまり料理には向いてなかったようで、台所では下準備くらいしか手伝うことができなかった。
その代わりというわけではないが、奥様がストレス解消に、
時々目新しい料理をふるまってくれることもあって、
それを手伝ううちに彼女も料理が得意になっていった。
旦那様は、奥様を心底愛してもいたが、こっそりと遊ぶ女性にも事欠かなかった。
「いろんな経験をしておけ。」と中学生の俺にも、
会社経営、投資の仕方のほかに、ゴルフや武術、
果てには女遊びまで教えてくれた。
彼女が小学生のうちはせがまれて一緒に寝ていたのだが、
おかげで俺は鬱屈を溜め込むことなく、目の前でどんどん美しく成長していく彼女に無心に仕えることができた。
中学生になった彼女は、反抗期なのか、「お嬢様」と俺から呼ばれることを拒否した。
だからと言って他に呼びようもなく、俺は彼女をお嬢様と呼び続けた。
しばらくはそのたびに可愛い頬をプッと膨らませていたが、
そのうちにあきらめたのか抵抗もおさまった。
俺は高校を卒業すると、大学へは行かず旦那様の秘書見習いとして正式に働き始めた。
初めての給料で、俺は彼女にペンダントを送った。
小さな石のついた安物だったが、彼女は涙ぐんで喜んでくれた。
「宝物にするね。」
彼女へのプレゼントを買う以外には、特に使い道もなかったため、教えてもらった投資を始めた。
最初は失敗もあったが、コツがわかり始めると、それなりに貯蓄も増えていった。
秘書見習いとして旦那様に付いて回る日々。
覚えることがいっぱいだったけれど、仕事も面白く、人間関係などの環境も良かったため、俺は仕事を楽しんでいた。