「すみませんでした。」


人は誰しも、他人に言えない秘密の一つや二つ持っている。
ましてや敦賀蓮が外国人だったなんて、スキャンダル以外の何物でもない。
ヘタすると社も知らないであろうトップシークレット。
たかだか後輩の自分が、昔面識があったかもしれないというだけで
自分のひとりよがりで追究していい事じゃない。


冷静になった頭でそこまで思い至ったキョーコは、蓮に深々と頭を下げた。


「私、また騙されたんですよね。 あいつにもこんなデタラメ他では絶対言わないように、釘を刺しておきます。 敦賀さんに恋してるなんてことを言いあてられちゃったんで、つい信じてしまって、気が動転しちゃったんです。 変なことでお時間をいただいてしまって、本当にすみません。 もう、帰ります。」


早口で適当な言い訳を並べ立て、逃げかえろうとしたキョーコは、蓮に腕を掴まれた。


「待って。 今、聞き流せない一言が挟まってた気がするんだ。 もう一回言って。」
「え、と。 あいつにこんなデタラメ言わないように釘を刺しときます?」
あと、何を言ったんだっけ、と考え込むキョーコに、蓮は真剣な顔で聞きなおした。
「誰が誰に恋してるって?」


気がついたキョーコの顔が一瞬真っ青になり、直後真っ赤に変化する。
「失礼します。」
脱兎のごとく逃げ出そうとしたキョーコを一瞬早く、蓮は後ろから抱きしめた。
「言って。 お願い。」
小刻みに震え始めたキョーコに、蓮はハッとして力を緩めた。


「ごめん。 狡かったね。 
今まで何度も肩透かしを食らってきて、臆病になってた。 
本当なら俺から言わなきゃいけなかったんだ。 
・・・最上さんに俺が、恋をしている。」
「嘘です。」
「嘘じゃないよ。 ずっと好きだった。」
「騙されません。」
「本当だよ。 あの河原であった時から、たぶんずっと好きだった。」
キョーコは身を捩って蓮の顔を見上げた。


「そうだ。 俺がコーンだ。」