本来の姿に戻った敦賀さんと私は、敦賀さんのマンションの部屋で、

美味しいディナーをいただいた。


おなかいっぱいになって、会話もはずんだけれど、

なんとなく別れがたくて、ソファーで2杯めのコーヒーを飲みながら、ずるずると会話をつづけていた。

でも。


「もう、遅いので失礼します。 タクシーで帰りますので、敦賀さんはゆっくり休んでくださいね。」
そう言って立ち上がろうとした私の手は、敦賀さんにそっと掴まれた。
「もう少し。 大事な話があるんだ。」
真剣な様子の敦賀さんに驚いて、私は姿勢をただした。
それでも敦賀さんは、しばらく逡巡していたが、思い切ったように眼を合わせて、私の両手を握った。


「最上さん。 好きだ。」
絶句している私に、敦賀さんは言葉をつづった。
「カインとセツとして暮らしてきたこの数日、すごく満ち足りていた。 

君のおかげで自分自身の問題にも決着をつけることができた。 

君が傍にいてくれたから俺は強くなることができた。 

でも、好きな人と兄妹として生活して、好きだと告げることもできなかったのはちょっと辛かった。 

だから、終わったら告白しようと思っていたんだ。 

・・・最上さん、ずっと好きだった。 

これからは恋人としてずっと一緒にいたい。 

俺と付き合って。」


同じことを感じていてくれたんだ。 

うれしくなると同時に、それならば、という気持にもなった。


「敦賀さん。 それは勘違いです。 長く一緒に居たからいろいろ同調しちゃってるだけですよ。 ストックホルム症候群てご存知ですか? 

元の生活に戻れば、すぐにわかります。」
「ふうん。」
うなるように低い声が聞こえた。 まずい! ものすごく怒ってる?


「ストックホルム症候群ねえ。

・・・その場合、俺と君どっちが犯人なのかな?」
「つ、敦賀さんなんじゃ?」
「俺は君を誘拐監禁したりしてないよね?」
「あ、あの。 物の例えと言いますか、一緒にいて別れがたくなるってことを表現したかっただけで。」
「真剣な告白を犯罪に例えるのはどうなんだろうね? 

俺の気持ちはそんなに悪い事なのかな?」
「あ、あの・・・」
失言に対し、厳しくたたみこまれて、どう言い繕ったらいいのか、わからなくなってしまった。


そんな、私のわたわたした様子に、敦賀さんは少し語気を緩めてくれた。
「だいたい、どちらかといえば、君が俺の心を捕えてるんだから、

君の方が犯人なんじゃないの?」
「そんなことありません! 私を捕まえているのは敦賀さんなんですから、敦賀さんが犯人です!」
私のとっさの反論に、敦賀さんが絶句する。
長い沈黙に不安になって、自分が何を言ったのか、思い返す。



あっ!