「今日で兄妹も終わりだね。」
映画全体よりも一足早いカインヒールのクランクアップの朝、
食事をしながら敦賀さんはそう言って淋しそうに微笑んだ。

「こんな充実した食事も最後か。」
「別にお食事くらい、言ってくださればいつでもお作りしますよ。 食事中枢が麻痺している敦賀さんからはなかなか出ない貴重な発言ですからね。」
「それは、ラブミー部として? それとも最上キョーコとして?」
「そうですねえ。・・・後輩としてですかね?」
言った途端に、敦賀さんの笑顔が少し変わった。
うっすらと感じるこれは・・・怒気?
私の顔が引きつったのに気付いたのか、敦賀さんからは
不穏な気配はさっと消えた。


「最上さんの今日の予定はどうなっているの?」
「特にはありませんので、一日ご一緒させていただきますね。」
「じゃあ、一緒に夕食をどうかな? 二人だけで打ち上げ。」
「この姿でですか?」
「うん。 これならどこで食事したって大丈夫でしょ?」
「ええ、でも・・・ミューズにいろいろお返ししないといけないし、ある意味、私用ですから、あまり遅くなってはご迷惑になりませんか?」

敦賀さんは、ちょっと考えてから、
「そうだな、じゃあ、いつもみたいに俺の部屋になっちゃうけど、いい?」
「はい! それならいろいろ買い出ししてお惣菜を作り置きしておきます。」
「いや、今日は打ち上げなんだから、ケータリングを頼もう。 今日くらいはゆっくりして?」
敦賀さんの温かい笑顔を見つめているのが恥ずかしくて、頷くふりで視線を外した。


――どうしよう。 この距離感が心地良くておわってしまうのが、苦しい。




カイン兄さんとの生活は、すごく楽しかった。
カインとセツの兄妹はお互いに想い想われ愛し愛されていた。
役柄としての体感だったけれど、思えば私の人生の中では、これほど愛されたことはなかった。

「だから、勘違いしちゃったのかも。」
しばらく、落ち込んで、ふっ切った。

「役の上でも、愛されるって幸せを感じることができただけで、役者としてプラスよね。 知らないままだったらいつか行き詰まることだってあるかもしれないし。 すごく豊かな経験をさせてもらったんだ。 だから、終わっても淋しくても、元の私に戻れる! うん!」