○○○バスター=REN  



事務所で社さんと別れて休憩所に行こうとした眼の端に、

ピンクのつなぎを着た最上さんが入った。

声を掛けようと足を向けると、ひと足早く他の男が声を掛けていた。


「キョーコちゃん!」

「あ、光さん。今日は慎一さんと雄生さんと一緒じゃないんですか?」

光さん?慎一さん?雄生さん?男の名前だよな。苗字じゃない。

言いようのない不快感がこみ上げる。

「ああ、事務所で待ち合わせだから、もうすぐ来るよ。俺たちキョーコちゃんに

ちょっとお願いがあるんだけど・・・」

「なんですか?私で出来る事でしたら何でも言って下さい。」

そんな簡単に、そんな事を男に向って言うなんて!!


「いや、俺達今度料理番組のゲストに呼ばれててさ、キョーコちゃんに料理の手ほどきを受けたいなって思って・・・」

「なんだ、そんなことですか。もちろんお手伝いさせて下さい。」

「じゃあ、今週中にでも家に来て教えてくれる?」

「え、光さんのおうちで、ですか?」

「うん、うち、いつもみんなのたまり場みたいになってるからさ」

男ばっかりのうちへ?冗談じゃない!

二人に近づこうと一歩踏み出そうとしたが、


「おうちのキッチンだと4人で調理ってわけに行きませんから、事務所の食堂のキッチンをお借りしましょう。」

最上さんのあっさりした切り返しに、ちょっとホッとする。

『光さん』の方は反対にがっかりした様子だ。

「・・・そ、そっか、そうだよね、うん。椹さんに俺から頼んでみるよ。」

「はい、それで、何を作るんですか?材料とか用意しましょうか?」

「それも椹さんに相談してみるから。材料はマネージャーに頼むし。 キョーコちゃんなら和洋中華何でも大丈夫でしょ?何食べても美味しいもんね。」

「ありがとうございます。和食が一番得意ですけどね。」


『光さん』は最上さんが料理上手な事をよく知っているようだった。

口ぶりから何度も食べた事があるみたいだ。

俺以外の男にも、食事や弁当を作ってる?

カッと血が上る。握った手が震える。

だめだ、この状態では最上さんを怯えさせる。

眼を閉じて、息を吸って、大きく吐く。

「じゃあ、また連絡するから」

「はい、お疲れ様でした。」


彼女が『光さん』と別れ、こっちへ歩いてくるのが見えた。

「最上さん。」

出来る限り優しく声をかける。彼女がにこっと笑って応えてくれる。

「敦賀さん、おはようございます。」

「おはよう。今日時間あるなら、ご飯作ってほしいな。俺んちで。」

俺の声にさっき最上さんと別れたばかりの男の足が止まる。


「珍しいですね。敦賀さんが自分からご飯が食べたいなんて。」

「なんだか、今日は美味しい和食が食べたい気分なんだ。」

「いいですよ。何時頃お邪魔したらいいですか?」

「終わる頃に電話するよ。迎えに行くから。」

こっちを見ている男の顔色がさっと変わるのが見えた。

最上さんに気付かれないように、『光さん』に向って、微笑ってやる。

彼は小さく会釈をして、立ち去った。

よし。


今日は運よくああいう場面に行きあって、馬の骨駆除に成功したけど・・・。

でもね、あとできっちり、他の男の家に料理を作りに行くなんて事、

たとえスペースがいっぱいあったって絶対しちゃいけないって、

言い聞かせなくちゃ。

さて、どう言いくるめようか・・・。

あと、あの男たちをなんで名前で呼んでるかとか、どういう関係かとか、

なんで彼らに食事を作った事があるのかとか・・・。

色々聞きたい事はあるけど、問い詰める訳にはいかないか・・・?

はあ、もう、どうしよう。


★★★★★


蓮はキョーコのことで悩んでますが、

私はタイトルに悩んでこんなんになっちゃった。

○○○には馬の骨的なものを入れてください。

バスターは(buster=やっつける、退治する)って意味なんですけど。

ちょっとかっこいいネーミングを探したんだけど

ださださだぜ。