商品は秋冬向けのホットドリンク。

CMのコンセプトは遠距離恋愛のちょっと淋しい心を温める。


「さっきのまんまでいいから。」
「え?さっきってなんですか?」
黒崎はキョーコのペンダントを指さした。
「それ見てなんか言ってたろ。逢いたいとかなんとか。

あれ、あのまんまここでやってくれ」
「ワタシ、声出してました・・・?」
――――
まさか、社さんにも聞こえてた?

 でも、後ろだったから、ペンダントは見られてないよね?
「さっさと、着替えてこい! それも持ってこいよ。使うから。」
「や、あの、これは、ちょっと・・・」
「なんだ、彼氏からのプレゼントだろ。映っちゃまずいなら、

見えねえようにしてもいいからとにかく手に持っとけ!」
「カ、カレシナワケナイジャナイデスカ! 

コレハ・・・エット・・・クイーンローザサマガデスネ・・・」
「そんなことは、どうでもいいから。

時間無いから、さっさと着替えて、さっさと撮る!」
「・・・はい・・・」



『逢いたいなぁ・・・』
TVから聞こえてきた、想い人の切なげな声にハッとする蓮。
うつむいて手の中の何かに向かって話しかけ、

うっすらと瞳をうるませるキョーコ。
ほぉっとため息をついて、恋する女の子の顔をしている。
――――
誰だ!! あの娘にこんな顔をさせた男は!!
ギュッと心臓をつかまれたように、苦しくなる。
想像もしたくない男を思い出し、ぐっと握りしめた拳を机に叩きつける。

「あ、これ、こないだの。オンエア早いなあ。

やっぱよっぽど時間に余裕なかったんだなあ。でも、いい出来だろ。」
スケジュールの確認にやってきた社の、のほほんとした声に、苛立つ。
「知ってたんですか?」
「ああ、黒崎監督がキョーコちゃんにオファーした現場に居合わせたからね。
いい顔してるよね、キョーコちゃん。確かにこのCMにあの雰囲気はぴったりだったなあ。」
そう言ってから、社はやっと蓮のまとう負のオーラに気が付いた。
「あ、の、蓮? なんか勘違いしてない?」
「なにが、ですか。」
絞り出すような蓮の声に、社は大きくため息をついた。
「キョーコちゃんの逢いたい人、オレ知ってるよ。」
ハッとして顔を上げると、にんまりとしている社が目に入る。

「キョーコちゃんの手の中にあるもの。プリンセスローザだぞ。」
きょとん、とした一瞬あと、真っ赤に染まる蓮に、

よかったな、と肩を叩いてそっと笑う。
――――
まるで中学生の恋愛だな。
「まあ、キョーコちゃん自身が、

その意味に気が付いているかどうかは別問題だけどな。」
続いた社の言葉に、浮上した気持ちが下降していく蓮。
――――
そうだった。あの娘はそういう子だった。

期待しすぎると後がイタイ。
「・・・社さん、オレで遊んでますよね、確実に。」


――――
今日は電話をしよう。CM見たよとは言えないけれど。 

久しぶりにTVを通さない声がききたい。
明るく笑って話してくれるだろうか。

声を聞いたら止められなくなってしまうだろうか、この気持ち。

オレも、逢いたいな。

fin.