1994年 出逢い篇06 | 幸せネル子の奔放自在な日々-Viva la Vida-(気分で変わります)

幸せネル子の奔放自在な日々-Viva la Vida-(気分で変わります)

美エイジング、スピやら脳やら。大好きな斎藤一人さんのお話など。

山下先輩のアパートに戻ってからも、なんとも言いようのない、
変な気持ちがなかなか抜けなかった。
勿論変な気持ちとは言っても不快なものではなく、
むしろ心地の良い余韻のような不思議な感覚が残っていて、
私はそれを楽しんでいた気がする。

ひどく無愛想で私にはまったく無関心のように見えたシロが、
猪苗代湖に向かう道すがら大胆に脚を触ってきたことには死ぬほど驚いたが、
帰りの車の中では私はすっかりシロの話の面白さに
引き込まれてしまっていた。
もしかするとその時点で既にシロという人物そのものに
強く惹かれてしまっていたのかもしれない。

その夜、山下先輩は課題を片付けるために大学のPCルームに行くと言い出した。
アパートから大学までは歩いて5分くらいだったと思う。
「こんな時間に開いてるもんなの?」
と思ったが、
その大学は1年前(1993年)に出来たばかりの日本初のコンピュータ専門大学で、
今ではさほど珍しくはないが、カードキーで24時間出入りが可能とのことだった。
物珍しさもあってワクワクしながら私も勿論ついて行った。

実はその時私は、ほんの少しの罪悪感に苛まれながら、
「もしかしたらまたシロに会えるかもしれない」と、
密かに、静かに、ドキドキしていた。

PCがずらっと並んだ部屋に入ると、
私はすぐさまこっそりシロの姿を探した。
このあたりの記憶は曖昧だが、私はすぐにPCルームの後の端にいる
シロを見つけていた。
シロはこちらには気づいていないようだった。

隣にはやたらと胸のでかい女が居て、
直感的に「この人シロさんの彼女かな」と思った途端、
さっきまでのドキドキはもう消えてしまっていた。

PCルームには私が予想していたよりもたくさんの学生がいて、
山下先輩の友達が何人かいた。
山下先輩は私を彼らに紹介したので、私は差し障りのない挨拶をした。
初めての人の前に出るのはやはり落ち着かない。

私は山下先輩が課題を片付けている間、PCの中に入っているゲーム(ブロック崩し)
で遊んでいるように言われていたのだが、
あっという間に何度もゲームオーバーになっていて、正直飽きてしまっていた。


ふとあたりを見回すと、郡山からここまで車に乗せてくれた、
農家のボンボンだという遊び人風のキタガワ君がいた。
キタガワ君は私に気づくと、おっ、というような顔をして、
キャスター付きの椅子に乗ってゴロゴロと移動してきた。

「なにしてんの」
「これ…すぐ終わっちゃうんです」

キタガワ君はふくれっ面の私と、ゲームオーバーになっているブロック崩しの画面を見て
「はいはい、ちょっとどけて」と私が座っているキャスター付のイスを
勢いよく押して私をPCの前からどけると、
なにやらPCをいじっていた。ほんの数秒後「これでやってみ」
とキタガワ君。

ゲームをスタートさせてみると、ブロックを崩すボールの速度が
恐ろしく遅くなっていた。
「これならしばらく遊べるだろ」
おそらく私はその時ものすごくいい顔で笑っていたと思う。

ブロック崩しとしてはまったく面白味のないものにはなったが、
うまく遊べなくてへそを曲げていた私にはちょうどよかった。
真剣な表情で超低速のブロック崩しで遊んでいると、
左側になにやら気配を感じた。

「なにやってんの」

今度は勿論キタガワ君ではなかった。
顔を上げるとそこにいたのはシロだった。