「ただいまです。」
時刻は11時過ぎ。誰もいない部屋に向かって零れる言葉が、今の俺を表しているかのように重く落ちた。・・・・・昨日は疲れた。初めての乙女イベントに出演した俺。夜の部でキャスト全員揃って挨拶をし、ステージから降りた瞬間。緊張から開放されたからか膝から落ちてしまった。日下部さんが慌てて駆け寄り支えてくれ、険しい表情に向かって俺はニヘラと笑っていた。
『バカヤロウッ!!びっくりさせんな!』
『すみません。なんか緊張の糸が切れたようで、もう大丈夫です。』
『ったく。どんだけ心臓ちっせーんだ。あんなに楽しんで歌ってたくせによ。』
『あはは。』
その後、キャスト、スタッフで打ち上げをしホテルに泊まった。そして朝と言うか昼前に家路に着いた。誰も居ない部屋は、いつも綺麗でローズの香りで満ちている。彼女の好きな花だからだ。俺は3LDKの部屋の1つを使わせてもらっている。彼女と言っても彼氏彼女ではなく、お互い寂しいとき体を重ねる。一般的にはセフレってやつだが、そこには普通の生活がある。掃除、洗濯、食事。俺の仕事が不定期だと言うこと、いきなり事務所から仕事が入ったと電話が入ることもあり、1日に1回顔を会わせればいいほうだったりする。メモを読む前に、レンジに向かいスイッチを入れる。
"おかえりなさい、大和君。ご飯冷蔵庫にあるから食べてね。今夜、会えるといいね。 美雪より"
立花美雪。この部屋の女主だ。オーディションに受からない日々が続いて荒れて酒を飲んでいた俺。独りで居酒屋で飲んでいた美雪さんを口説き、強引に部屋に上がりこんでベッドを揺らした。翌朝、いい匂いにつられて部屋を出るとテーブルに2人分の食事が出来上がってた。
『おはよう。』
『お、おはようございます。』
『ご飯出来たから一緒に食べよ。』
いただきますの言葉を聞き、俺は椅子に座り目の前の彼女に続いた。日本の朝食で育ってきていない俺は、ご飯とみそ汁、おかずに違和感を感じたが口に入れた瞬間、覚醒し箸が止まることが無かった。
『ふふっ、よく食べるわね。』
『マジうまいっす。あ、すみませんあなたの分も食べてしまって。』
『いいのよ。今ダイエット中だから。それにあなたじゃなくて、立花美雪よ。』
『立花・・・美雪、さん。』
『そう。けど普通男性から名乗るものじゃないかしら?坊や。』
『坊やって・・・堺大和ッス。これでも24ッス。』
『あら、大学生かと思ったわ。ごめんなさいね。』
そう言ってテーブルの食器を片付け始めた。俺は慌てて食器を持とうとするが、小さな手がそれを静止した。
『不器用そうに見えるから気持ちだけ受け取るわ。その替わり昨夜の続き今夜もしてくれるかしら?』
『えっ?』
『こういうこと。』
彼女の唇が触れた。何度も角度を変えて離れ吐息が零れた。雄が覚醒する。彼女の肩を両手で抱くと、静かにストップをかけられる。
『今から仕事なの。お楽しみは後からの方がいいでしょ。待った分、大和君の好きにしていいから。』
ドクン。心臓が飛び跳ねた。そんな俺を余所に食器を洗い始める。そう言われたら脳内で彼女の服を脱がし始める俺がいた。ダメだ、落ち着くんだ俺。思春期のガキみたいに盛ってると思われるっ!水道を止め、化粧をし始めた。ベースは作っていたらしく、アイメイク、チーク、そしてグロスをつけようとした彼女が俺を見て微笑む。
『塗る前に大和君。もう1度キスしよ。』
そう言われ断るはずもなく、今度は俺から唇を合わせた。
『ふふっお留守番中、部屋にあるものは好きに使っていいから。鍵はこれね。それじゃ行って来るわ。』
先ほどまで合わせていた唇に色を乗せ、俺に微笑む。長い髪が宙を舞い、ヒールの音が部屋から出てバタンと扉が閉まった。部屋に残された俺は立花美雪に流された状況を整理しようとソファーに腰を落とした。
不思議な女性だ。素性の知れない俺に部屋の鍵を預け出て行くなんて普通じゃない。何も分からない。まっ、ヤらせてくれるって言うし俺がここに住むことになってるみたいだし?実家じゃなければどこでもいい。今まで住んでいた女の家から荷物を移そうと思った。ってか、ここどこだよ。携帯を取り出して位置を確認すると港区と表示される。いい場所に住んでるじゃんと関心する。そして俺の実家から10分もかからない位置にあると知りため息をつく。・・・・・マンションの住人まで調べはしないか。
ピピッ。レンジが俺を呼ぶ。そうだ。もう昔の俺じゃない、少しずつだがお金も稼げるようになって名前も小さいながら雑誌に載るようになった。イベントにも出させてもらえるようになった。俺はこれからまだまだ高みを目指さなければならない。
「いただきます。」
まずは腹ごしらえが先だ。フォークとスプーンが置いてあったが、俺は箸で全てを飲み込んだ。
「皆さん、気になる新作ゲームはありましたか?商品の紹介はサイトに順次アップしていきます。皆さまのお気に入りのキャラを見つけて頂きぜひ購入してくださいね。それではっ!皆さまお待ちかねのライブの時間ですっ!!まだまだ盛り上げますよーっ!最初の曲は、加賀美恭介(CV.井波海人)が歌う"Baby Me"ですっ!!」
照明が落ち、大音量のメロディーと歓声が響き渡る。イベントもいよいよ大詰めだ。色とりどりのサインライトがホールを埋め尽くす。今日は某乙女ゲームのイベント。この日のために家で告白の台詞を練習し・・・・想像するなよっ!すげぇ恥ずかしいんだからよっ!!スクリーンに映る花とハートの枠の中に俺のドアップ。演出とは言え、これまた恥ずかしわけで。と、俺のことはどうでもいいんだよ。今は井波が歌う曲を楽しまなければ!!グッズで販売されているTシャツが汗を吸い込む。夜の部の終演時間が迫る。次に歌う長野康高がスタッフの誘導の元、マイクを取りスタンバイをしている。
「おいヤス。盛り上げてこいよ。」
息を吐くヤスの肩を叩き気合を入れてやる。そう思ってるのは俺だけかもしれねぇが。
「アキこそ、踊りつかれて倒れないでくれよ。」
「バーカ。そんな軟な身体じゃねーつーの。見ろ、この筋肉っ!!」
「相変わらず筋肉バカだよ、あんた。」
「何とでも言えっ。筋肉ある方が女受けいいだろ。」
「だからいつまでも独身なんだよ。遊びもそろそろやめたら?」
「決まった相手がいねぇんだ。自由があるうちに遊んでなにが悪い。」
「そうだけどさ、彼女くらいいてもいいんじゃない?」
「束縛されるの嫌だってーの。この歳まで独りだと、女はウザイだけだ。」
「そんなもんかね。」
少し前に結婚した長野が首をかしげる。愛する女がいるなら遊ばないさ。それくらい出来るってぇの。だけど、いねぇんだ。溜まるもん吐き出して何が悪い。
「長野さん出番です。お願いしますっ!」
「ってことで、行って来るよ。」
「あぁ、楽しんで来い。」
ウインクをして出て行くヤス。男にされても気持ち悪いだけだってぇの。どうせなら会場の女性全員にウインクしてもらいたいくらいだぜ。
「そろそろ終わりっすね。」
「大和、夜の部は余裕そうじゃねぇか。どうだ、初めての乙女イベントは。」
「女子の数と熱気に圧倒されました。告白シーンは恥ずかしかったですけどね。」
「数場踏んでる俺でさえ恥ずかしいんだ。けどよ、そのシーンあってこその乙女イベントだ。せいぜい愛想振りまいて人気を取るんだな。」
イベント出演者最年少の堺大和に言う。大和との付き合いは・・・・アニメで共演したんだっけか?覚えてねぇけど、そんな感じだ。中性的な顔立ちと弟キャラな性格でキャストやスタッフ、もちろん世の女子たちから可愛がられている。私生活は女の部屋に住み着いている、らしい。というか、ペットのように飼われていると言った方がいいのかもしれねぇ。家賃はもちろん大和自身だろう。羨ましいが、女に支配されるのはごめんだ。俺は女よりも優位に立ちたいと思う。結婚したら絶対に関白亭主になる妙な自信だけある。まっ、出来たらの話だが。・・・・おっと、脱線してしまった。俺にとって大和は、面倒を見てやりたいと思う弟ってとこだ。慕われるのは嫌いじゃねぇし、頼りにされるのは男冥利につくってもんだ。よしよし、いい子だ。
「ちょっと日下部さんっ!髪の毛が乱れますって!!」
「なぁーに女みてぇなこと言ってんだよっ!もとからクルクルのくせによ。」
「クルクルじゃないですっ!ウエーブなんですっ!」
「へいへい。ウエーブねぇ。髪があるやつは羨ましいぜ。」
「日下部さんは、男らしいヘアースタイルが似合ってカッコイイですよ。」
「フォローか?」
「ち、違いますよ!俺が日下部さんのヘアースタイル真似ても、似合わないですし。俺だって、男らしいスタイルにしたいんですっ!!」
「なら切ってやろうか?」
「あの・・・・・バリカン使ったりしませんか?」
「あ?俺がハサミ持ってる姿想像できるか?バリカンが1番楽で失敗しねぇ!!」
タイミングよくスタッフが大和を呼んだ。頭を下げ踵を返し、大和はスタッフのところに行きやがった。くくっ、分かりやすいやつだ。ヤスの歌も終わりに差し掛かり大和の番ってか。じゃ、その次は俺だな。自分で言うのもなんだが、歌は上手いほうだと自負している。音楽プロデューサーからも声がかかったこともある。ノルマをクリアすれば少しでも収入に繋がる。俺は二つ返事で承諾し、CD、アルバムを出している。もちろん、ファンとも交流を兼ねて地方へ出かけたりして元気を貰っている。ただ、キャラソンになるとキャラになりきり、キャラの感情を込めて歌わなければならない。文字通り、キャラが歌を歌っているからだ。"日下部晃"じゃダメだって分かってるのに、100%キャラになりきれない俺がいる。こんなでっけぇホールで歌うとなったら、"俺"が出てしまう。さぁ、もう一息だ。"日下部晃"から"矢部宣明"にスイッチを替える。
「日下部さんっ、スタンバイお願いしますっ!」
スタッフが俺を呼ぶ。マイクを取り、大和の歌を聞く。舞台裏から見てても大和の生き生きとした姿が見える。あいつ、楽しそうにしてやがる。キャラなのか大和なのか分からねぇ。けど、イベントってそんなもんだ。楽しんだもん勝ちだ。
「すげぇー楽しかったっ!でも、まだまだ盛り上がれるよなっ!!次はこの人!!!矢部宣明(CV.日下部晃)が歌う"Clover"ですっ!!」
大和が俺をエスコートする。順番とは言え、大和にエスコートされるとは。昼の部で経験したくせに顔がにやけてしょうがねぇ。照明が落ち大和が戻ってくる。
「バトンタッチです、日下部さん。」
「あぁ。前座ご苦労!」
「前座ってっ・・・・。」
「ふっ、出るぜ。そこで見てろ。昼とは比べもんにならねぇくらい暴れてやらぁ。」
サインライトの海に飛び込み音楽が流れる。照明が俺を照らし、観客が声をあげる。
「俺とおまえらだけのステージだ。熱い愛を送ってくれよなっ!!」
ステージ上を駆ける。左右を見渡せば光の波が俺を誘い込み、手を振って応えれば波はでかくなる。気持ちいい。光の波に消されないよう、俺はマイクに向かって歌を歌った。
照明が落ち、大音量のメロディーと歓声が響き渡る。イベントもいよいよ大詰めだ。色とりどりのサインライトがホールを埋め尽くす。今日は某乙女ゲームのイベント。この日のために家で告白の台詞を練習し・・・・想像するなよっ!すげぇ恥ずかしいんだからよっ!!スクリーンに映る花とハートの枠の中に俺のドアップ。演出とは言え、これまた恥ずかしわけで。と、俺のことはどうでもいいんだよ。今は井波が歌う曲を楽しまなければ!!グッズで販売されているTシャツが汗を吸い込む。夜の部の終演時間が迫る。次に歌う長野康高がスタッフの誘導の元、マイクを取りスタンバイをしている。
「おいヤス。盛り上げてこいよ。」
息を吐くヤスの肩を叩き気合を入れてやる。そう思ってるのは俺だけかもしれねぇが。
「アキこそ、踊りつかれて倒れないでくれよ。」
「バーカ。そんな軟な身体じゃねーつーの。見ろ、この筋肉っ!!」
「相変わらず筋肉バカだよ、あんた。」
「何とでも言えっ。筋肉ある方が女受けいいだろ。」
「だからいつまでも独身なんだよ。遊びもそろそろやめたら?」
「決まった相手がいねぇんだ。自由があるうちに遊んでなにが悪い。」
「そうだけどさ、彼女くらいいてもいいんじゃない?」
「束縛されるの嫌だってーの。この歳まで独りだと、女はウザイだけだ。」
「そんなもんかね。」
少し前に結婚した長野が首をかしげる。愛する女がいるなら遊ばないさ。それくらい出来るってぇの。だけど、いねぇんだ。溜まるもん吐き出して何が悪い。
「長野さん出番です。お願いしますっ!」
「ってことで、行って来るよ。」
「あぁ、楽しんで来い。」
ウインクをして出て行くヤス。男にされても気持ち悪いだけだってぇの。どうせなら会場の女性全員にウインクしてもらいたいくらいだぜ。
「そろそろ終わりっすね。」
「大和、夜の部は余裕そうじゃねぇか。どうだ、初めての乙女イベントは。」
「女子の数と熱気に圧倒されました。告白シーンは恥ずかしかったですけどね。」
「数場踏んでる俺でさえ恥ずかしいんだ。けどよ、そのシーンあってこその乙女イベントだ。せいぜい愛想振りまいて人気を取るんだな。」
イベント出演者最年少の堺大和に言う。大和との付き合いは・・・・アニメで共演したんだっけか?覚えてねぇけど、そんな感じだ。中性的な顔立ちと弟キャラな性格でキャストやスタッフ、もちろん世の女子たちから可愛がられている。私生活は女の部屋に住み着いている、らしい。というか、ペットのように飼われていると言った方がいいのかもしれねぇ。家賃はもちろん大和自身だろう。羨ましいが、女に支配されるのはごめんだ。俺は女よりも優位に立ちたいと思う。結婚したら絶対に関白亭主になる妙な自信だけある。まっ、出来たらの話だが。・・・・おっと、脱線してしまった。俺にとって大和は、面倒を見てやりたいと思う弟ってとこだ。慕われるのは嫌いじゃねぇし、頼りにされるのは男冥利につくってもんだ。よしよし、いい子だ。
「ちょっと日下部さんっ!髪の毛が乱れますって!!」
「なぁーに女みてぇなこと言ってんだよっ!もとからクルクルのくせによ。」
「クルクルじゃないですっ!ウエーブなんですっ!」
「へいへい。ウエーブねぇ。髪があるやつは羨ましいぜ。」
「日下部さんは、男らしいヘアースタイルが似合ってカッコイイですよ。」
「フォローか?」
「ち、違いますよ!俺が日下部さんのヘアースタイル真似ても、似合わないですし。俺だって、男らしいスタイルにしたいんですっ!!」
「なら切ってやろうか?」
「あの・・・・・バリカン使ったりしませんか?」
「あ?俺がハサミ持ってる姿想像できるか?バリカンが1番楽で失敗しねぇ!!」
タイミングよくスタッフが大和を呼んだ。頭を下げ踵を返し、大和はスタッフのところに行きやがった。くくっ、分かりやすいやつだ。ヤスの歌も終わりに差し掛かり大和の番ってか。じゃ、その次は俺だな。自分で言うのもなんだが、歌は上手いほうだと自負している。音楽プロデューサーからも声がかかったこともある。ノルマをクリアすれば少しでも収入に繋がる。俺は二つ返事で承諾し、CD、アルバムを出している。もちろん、ファンとも交流を兼ねて地方へ出かけたりして元気を貰っている。ただ、キャラソンになるとキャラになりきり、キャラの感情を込めて歌わなければならない。文字通り、キャラが歌を歌っているからだ。"日下部晃"じゃダメだって分かってるのに、100%キャラになりきれない俺がいる。こんなでっけぇホールで歌うとなったら、"俺"が出てしまう。さぁ、もう一息だ。"日下部晃"から"矢部宣明"にスイッチを替える。
「日下部さんっ、スタンバイお願いしますっ!」
スタッフが俺を呼ぶ。マイクを取り、大和の歌を聞く。舞台裏から見てても大和の生き生きとした姿が見える。あいつ、楽しそうにしてやがる。キャラなのか大和なのか分からねぇ。けど、イベントってそんなもんだ。楽しんだもん勝ちだ。
「すげぇー楽しかったっ!でも、まだまだ盛り上がれるよなっ!!次はこの人!!!矢部宣明(CV.日下部晃)が歌う"Clover"ですっ!!」
大和が俺をエスコートする。順番とは言え、大和にエスコートされるとは。昼の部で経験したくせに顔がにやけてしょうがねぇ。照明が落ち大和が戻ってくる。
「バトンタッチです、日下部さん。」
「あぁ。前座ご苦労!」
「前座ってっ・・・・。」
「ふっ、出るぜ。そこで見てろ。昼とは比べもんにならねぇくらい暴れてやらぁ。」
サインライトの海に飛び込み音楽が流れる。照明が俺を照らし、観客が声をあげる。
「俺とおまえらだけのステージだ。熱い愛を送ってくれよなっ!!」
ステージ上を駆ける。左右を見渡せば光の波が俺を誘い込み、手を振って応えれば波はでかくなる。気持ちいい。光の波に消されないよう、俺はマイクに向かって歌を歌った。
ピンポーン。チャイムが部屋に響く。
「問題だ、俺の好きなデザートは。」
「牛乳プリンです。」
扉を開ける。そこには、少し疲れて泣きそうな石動が立っていた。俺、こいつに無理言ったんじゃねぇか?そう思ったが、大好物のプリンを目の前にした俺はすぐさま忘れる。都合のいいのは今に始まったことじゃねぇ。
「お邪魔します。しかし、日下部さんに妹さんがいらしたなんて初耳です。」
「お前ら狼の耳に入ってみろ。俺の可愛い妹が、食われちまうじゃねぇか!」
「誰も食べませんよ。」
「なんだとっ!俺の妹は食えねぇって言うのかっ!?」
「アキ兄っ!恥ずかしいからやめてよっ!!」
「真菜っ!!」
後ろから可愛い声で言われたら振り向くのが男・・・・いや、兄の務め。フェミニンなワンピを着て、真っ赤な顔で怒って・・・可愛い。あ?シスコン!?うるせぇっ!!
やっぱ女の子が欲しいとぬかしやがった両親が・・・・言わなくても分かんだろっ!?で、俺が18の時に生まれたのが真菜だ。マジで女を産みやがった。初対面のときは、猿見たくてな、可愛くなかったんだが・・・・ちっさな手でギュッと服を掴まれて"にぃちゃ"、そう呼ばれた日の衝撃ったらよ。ヤベェ。思い出しただけで息切れしそうだ。
「い・・・いつも兄がお世話になってます。忙しいところ足を運んでくださいましてありがとうございます。」
「こちらこそ日下部さんには大変お世話になってます。ふふっ、日下部さんに誘われたたら断れませんよ。あ、たいしたものじゃないですが、良かったら食べてください。」
「ありがとうございます。夕食は食べられましたか?良かったら食べていってください。」
「嬉しいです。丁度お腹が減ってたので頂きます。」
「石動ダメだっ!真菜の飯は食わせんっ!!」
「アキ兄っ!!いい加減にしてよっ、そんなこと言うならアキ兄の夕食抜きだからねっ!!」
「ぐっ!」
「石動さん、失礼しました。さ、こちらへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
真菜のやつ、すっかり恋する乙女じゃねぇか。兄としては応援してやるつもりだ。だが、俺よりいい男じゃねぇと許さねぇ。確かに石動の容姿や(表向き)の性格はいい。あいつの陰で努力している姿を知っている。俺は石動を認めている。ただ、あいつはまだ何か隠してやがる。無理に聞く気もねぇが、あまり良いもんじゃねぇな。言いふらさないが俺の直感は当たる。
3人で夕食を食べ終え、真菜が一生懸命石動に話しかけてる。石動も笑顔を絶やさず付き合っている。真菜が石動のファンだと知ったのは最近のことだ。俺の仕事に一切興味を示さなかったヤツが急に俺に根掘り葉掘り聞いてくるようになり、不思議に思った。詳しく聞くと石動のファンだと言う。で、だ。本人に会わせてやれば俺の株も上がる。ついでに石動に対する真菜の株が下がってくれれば万々歳なのだが・・・・世渡り上手の石動がそんなヘマする訳ねぇ。ちっ、つまんねぇ。
「石動さん、あのっ・・・・。」
「真菜さんどうされました?」
「おい、石動っ!真菜の名前呼ぶんじゃねぇっ!!俺が認めた男にしか名前は呼ばさんっ!!」
「アキ兄っ!!」
「そうだなぁ・・・・"妹さん"でいいだろ。無難でいいじゃねぇか。」
「・・・ということなので"妹さん"で呼びますね。」
笑顔で石動が言う。素直なヤツは好きだぜ。良く言った。俺は満足して石動が帰るまで真菜をガードし続けた。
「もうっ、アキ兄が邪魔しないでよっ!せっかく石動さんと会えたのに番号交換できなかったじゃないっ!」
「お前の番号を石動に教えることはねぇっ!!会えただけでもいいじゃねぇか。サインだって貰っただろ。」
「そうだけど、個人的に会って話したいのっ!!」
「俺らの仕事知ってんだろ!?夜中に仕事終わることが多々あるんだ。ただでさえ石動は今休む暇ねぇ。そんなヤツに真菜の相手まで押し付けるわけはいかねぇ!ガキみたいなこと言うなっ!!」
「子ども扱いしてるのはアキ兄じゃないっ!邪魔しないでよっ!!」
「ほぉー、俺に石動呼ばして邪魔者扱いするのか。だったら最初から、自分の力で石動と会えばいいじゃねぇか。そしたら俺を邪魔者にしてもいい。俺の言ってること間違ってるか?」
「・・・・っ、アキ兄なんて嫌いっ!!」
「!!?」
・・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・・今なら、余裕で溶けることができそうだ。泣いて湖作れそうだ。うん。けど俺間違ったこと言ってないよな。シスコンだからって間違っちゃいねぇ・・・・はずだ。あー、意識がはっきりしてきた。真菜は怒って帰っちまった。部屋のドア壊す勢いだったなぁ。俺のハートは壊れたが。
ベランダに出てタバコに火をつける。喉に悪いって分かっていながら、真菜を怒らせた日は必ずタバコを吸っている。普段は吸わねぇんだがな。寂しさを紛らわすかのように俺の商売道具を痛めつけて反省する。だが怒らせても真菜が可愛いことには変わりがねぇし、すぐ仲直りする自信もある。石動の連絡先渡せば一発だ・・・・渡さねぇけどよ。
紫煙が夜空に浮かび消える。この業界に入ってから今まで振り返る。若いころはやる気だけ先走りして、先輩やプロデューサーと衝突ばかりしていた。今思えばよく切られずに今までこれたなと思っている。それでも今があるのはスタッフや事務所のお陰で、食うに困らない生活ができることに感謝している。慕う先輩、スタッフがいる。慕ってくれる後輩、スタッフがいる。すげぇ幸せな環境にいるって分かっている。だが、人間不思議なもので満たされると違うものが欲しくなっちまう。それが女だった。同じ業界の女には手を出さない。恋愛相手ならありだが、遊びはねぇ。狭い業界だ。うわさなんてあっと言う間に広まっちまう。だから俺はバーに行って女を釣る。声オタ以外の女でも低い声が好きだと分かる。酒も入ってる。声でその気にさせるなんて簡単だった。
性欲処理のために何人か関係を持っている女がいる。人妻、大学生、秘書。みんな溜まってやがる。理由はどうであれ、欲を満たすのはいいことだ。己に忠実に生きる。それが俺のモットー。女はいい。ベッドの上限定だが、嫌なことを全て忘れさせてくれる。だからと言って付き合うとは考えてねぇ。記念日?髪型変えた?化粧を変えた?気付いてくれない。と、口を尖らせて言う。最初は可愛くても、徐々にそれが煩わしくなる。どっちの服がいいかとか、俺が選んでも無視。なら最初から聞くなって思うわけで、女ってもんは面倒なもんだという結論に至った。それでも妹の真菜は特別なのだが。どこが普通の女と違うと問われたら、"俺の妹"だからと言うしかない。
40手前で結婚の2文字を考える。早く孫の顔を見せろと口うるさく言う。俺1人食うには困らないが、仕事の保障がない。嫁やいずれ生まれてくるだろう子どもを養ってく自信がない。と言うのは親を宥める口実で、本当のところ悠々自適の生活にピリオドを打ちたくないだけ。それこそよく言う"運命の出会い"ってヤツが無い限りピリオドを打つ日はないだろう。ま、この歳でそれはないだろうが・・・。
「さーてと、そろそろ台本チェックでもしますか。」
火を消して部屋に入る。頭を働かせるために糖分でも取らねぇと。石動が買ってきたプリンにスプーンを入れる。真っ白なプリンは黒い俺の腹に静かに落ちていった。
「問題だ、俺の好きなデザートは。」
「牛乳プリンです。」
扉を開ける。そこには、少し疲れて泣きそうな石動が立っていた。俺、こいつに無理言ったんじゃねぇか?そう思ったが、大好物のプリンを目の前にした俺はすぐさま忘れる。都合のいいのは今に始まったことじゃねぇ。
「お邪魔します。しかし、日下部さんに妹さんがいらしたなんて初耳です。」
「お前ら狼の耳に入ってみろ。俺の可愛い妹が、食われちまうじゃねぇか!」
「誰も食べませんよ。」
「なんだとっ!俺の妹は食えねぇって言うのかっ!?」
「アキ兄っ!恥ずかしいからやめてよっ!!」
「真菜っ!!」
後ろから可愛い声で言われたら振り向くのが男・・・・いや、兄の務め。フェミニンなワンピを着て、真っ赤な顔で怒って・・・可愛い。あ?シスコン!?うるせぇっ!!
やっぱ女の子が欲しいとぬかしやがった両親が・・・・言わなくても分かんだろっ!?で、俺が18の時に生まれたのが真菜だ。マジで女を産みやがった。初対面のときは、猿見たくてな、可愛くなかったんだが・・・・ちっさな手でギュッと服を掴まれて"にぃちゃ"、そう呼ばれた日の衝撃ったらよ。ヤベェ。思い出しただけで息切れしそうだ。
「い・・・いつも兄がお世話になってます。忙しいところ足を運んでくださいましてありがとうございます。」
「こちらこそ日下部さんには大変お世話になってます。ふふっ、日下部さんに誘われたたら断れませんよ。あ、たいしたものじゃないですが、良かったら食べてください。」
「ありがとうございます。夕食は食べられましたか?良かったら食べていってください。」
「嬉しいです。丁度お腹が減ってたので頂きます。」
「石動ダメだっ!真菜の飯は食わせんっ!!」
「アキ兄っ!!いい加減にしてよっ、そんなこと言うならアキ兄の夕食抜きだからねっ!!」
「ぐっ!」
「石動さん、失礼しました。さ、こちらへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
真菜のやつ、すっかり恋する乙女じゃねぇか。兄としては応援してやるつもりだ。だが、俺よりいい男じゃねぇと許さねぇ。確かに石動の容姿や(表向き)の性格はいい。あいつの陰で努力している姿を知っている。俺は石動を認めている。ただ、あいつはまだ何か隠してやがる。無理に聞く気もねぇが、あまり良いもんじゃねぇな。言いふらさないが俺の直感は当たる。
3人で夕食を食べ終え、真菜が一生懸命石動に話しかけてる。石動も笑顔を絶やさず付き合っている。真菜が石動のファンだと知ったのは最近のことだ。俺の仕事に一切興味を示さなかったヤツが急に俺に根掘り葉掘り聞いてくるようになり、不思議に思った。詳しく聞くと石動のファンだと言う。で、だ。本人に会わせてやれば俺の株も上がる。ついでに石動に対する真菜の株が下がってくれれば万々歳なのだが・・・・世渡り上手の石動がそんなヘマする訳ねぇ。ちっ、つまんねぇ。
「石動さん、あのっ・・・・。」
「真菜さんどうされました?」
「おい、石動っ!真菜の名前呼ぶんじゃねぇっ!!俺が認めた男にしか名前は呼ばさんっ!!」
「アキ兄っ!!」
「そうだなぁ・・・・"妹さん"でいいだろ。無難でいいじゃねぇか。」
「・・・ということなので"妹さん"で呼びますね。」
笑顔で石動が言う。素直なヤツは好きだぜ。良く言った。俺は満足して石動が帰るまで真菜をガードし続けた。
「もうっ、アキ兄が邪魔しないでよっ!せっかく石動さんと会えたのに番号交換できなかったじゃないっ!」
「お前の番号を石動に教えることはねぇっ!!会えただけでもいいじゃねぇか。サインだって貰っただろ。」
「そうだけど、個人的に会って話したいのっ!!」
「俺らの仕事知ってんだろ!?夜中に仕事終わることが多々あるんだ。ただでさえ石動は今休む暇ねぇ。そんなヤツに真菜の相手まで押し付けるわけはいかねぇ!ガキみたいなこと言うなっ!!」
「子ども扱いしてるのはアキ兄じゃないっ!邪魔しないでよっ!!」
「ほぉー、俺に石動呼ばして邪魔者扱いするのか。だったら最初から、自分の力で石動と会えばいいじゃねぇか。そしたら俺を邪魔者にしてもいい。俺の言ってること間違ってるか?」
「・・・・っ、アキ兄なんて嫌いっ!!」
「!!?」
・・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・・アキ兄なんて嫌い・・・・・今なら、余裕で溶けることができそうだ。泣いて湖作れそうだ。うん。けど俺間違ったこと言ってないよな。シスコンだからって間違っちゃいねぇ・・・・はずだ。あー、意識がはっきりしてきた。真菜は怒って帰っちまった。部屋のドア壊す勢いだったなぁ。俺のハートは壊れたが。
ベランダに出てタバコに火をつける。喉に悪いって分かっていながら、真菜を怒らせた日は必ずタバコを吸っている。普段は吸わねぇんだがな。寂しさを紛らわすかのように俺の商売道具を痛めつけて反省する。だが怒らせても真菜が可愛いことには変わりがねぇし、すぐ仲直りする自信もある。石動の連絡先渡せば一発だ・・・・渡さねぇけどよ。
紫煙が夜空に浮かび消える。この業界に入ってから今まで振り返る。若いころはやる気だけ先走りして、先輩やプロデューサーと衝突ばかりしていた。今思えばよく切られずに今までこれたなと思っている。それでも今があるのはスタッフや事務所のお陰で、食うに困らない生活ができることに感謝している。慕う先輩、スタッフがいる。慕ってくれる後輩、スタッフがいる。すげぇ幸せな環境にいるって分かっている。だが、人間不思議なもので満たされると違うものが欲しくなっちまう。それが女だった。同じ業界の女には手を出さない。恋愛相手ならありだが、遊びはねぇ。狭い業界だ。うわさなんてあっと言う間に広まっちまう。だから俺はバーに行って女を釣る。声オタ以外の女でも低い声が好きだと分かる。酒も入ってる。声でその気にさせるなんて簡単だった。
性欲処理のために何人か関係を持っている女がいる。人妻、大学生、秘書。みんな溜まってやがる。理由はどうであれ、欲を満たすのはいいことだ。己に忠実に生きる。それが俺のモットー。女はいい。ベッドの上限定だが、嫌なことを全て忘れさせてくれる。だからと言って付き合うとは考えてねぇ。記念日?髪型変えた?化粧を変えた?気付いてくれない。と、口を尖らせて言う。最初は可愛くても、徐々にそれが煩わしくなる。どっちの服がいいかとか、俺が選んでも無視。なら最初から聞くなって思うわけで、女ってもんは面倒なもんだという結論に至った。それでも妹の真菜は特別なのだが。どこが普通の女と違うと問われたら、"俺の妹"だからと言うしかない。
40手前で結婚の2文字を考える。早く孫の顔を見せろと口うるさく言う。俺1人食うには困らないが、仕事の保障がない。嫁やいずれ生まれてくるだろう子どもを養ってく自信がない。と言うのは親を宥める口実で、本当のところ悠々自適の生活にピリオドを打ちたくないだけ。それこそよく言う"運命の出会い"ってヤツが無い限りピリオドを打つ日はないだろう。ま、この歳でそれはないだろうが・・・。
「さーてと、そろそろ台本チェックでもしますか。」
火を消して部屋に入る。頭を働かせるために糖分でも取らねぇと。石動が買ってきたプリンにスプーンを入れる。真っ白なプリンは黒い俺の腹に静かに落ちていった。
