苔からみた我が世界は。-1
ゾワッとした
なぜなら自分が生きてるか死んでるか分からなくなったから
ただ不思議と違和感はなかった
きっとそんなもんなんだろう
生きると死ぬの差なんて
ふとそんなことを思って起き上がる
そしてまた何かが始まる
そう俗に言う1日というやつが始まるのだ
仕事をして、合間の時間には読書に勤しむ
そんな奴だった
本を読んでいて思うことがある
フィクションというやつのことだ
いつも思う
なぜこうパーっと幸せになるような小説は世に少ないのだろうかと
そんなものを書いても売れやしないのか
つまり世間が求めてないのだろうか
小説のほとんどは少し憂いている
切なさとやるせなさ、どうしようもなく行き場のない孤独が登場し、読者に同情する
そしてそんな中に少しの心温まるエピソードが織り交ぜられフワッと幸せな感情が溢れるのだ
人間は不幸がないと幸が分からない生き物なのだろうか
底抜けに明るい小説がもっともっと増えてもいいのでないのだろうか
そんなに憂いて、グッと心を締め付けられて、心満ち足りるのだろうか
そんなことを思いながらも俺はまた小説を読むのだ
答えはここにある
そう俺自身がまた読みたくなっているのだから
つまらない人間だなと思った
いや、そう決め付けているのは俺自身なのだが
時計を見るともう夕方の5時
仕事はあと2時間ばかりして帰ろうと思い
本日3杯目となるコーヒーを淹れに向かった
このところ暇さえあればいろんなコーヒー豆を集めているのだ
かと言ってコーヒーにこだわりがあるのか、と聞かれれば、いや違う、と答えるだろう
本当にそうなのだから
こだわっているわけではないが気に入ったから買っておこう、美味しそうだから買ってみようを繰り返して集まっただけであって、決して集めたわけではないというのが本音
若くない歳になったからだろうか
なにかと欲しいものを買えるようになったからだろう
ここのところふと気付くと考えとは裏腹にモノが増えていることがあるのだから
「モノが増えている」頭の中でもう一度も響かせた
そう言えば最近我が家にやってきた奴がいる
本当に不思議な奴で初めは気持ちが悪いほどだった
苔
うちにやってきたのはそんな奴だった
苔を飼い始めた理由なんて特になくて、むしろ飼うで正しいのかすらも分からない
ただなんとなくホームセンターに寄り、必需品を買った最後に目に入ったのだ
小さくてなんの力もなさそうな緑色の物体を
不思議と惹かれてしまったのだ
こんな色のない面白味のない場所にいてはいけないだろうなと思い
連れて帰ることにしたのだ
同僚に「ついにお前もそこまできたか」と哀れみの目を浴びせられることを承知の上でお前さんを飼ったのだ
家に帰って来てちょうどスペースのあった腰上辺りまでの高さの棚の上に置いた。
隣には電子時計が静かに時を刻んでいた
昔から秒針の音が苦手で電子時計しか家に置いていられないのだ
秒針の音と自分の中のリズムがどうも合わないらしく、秒針の音を聞くと急かされているような、生き急いでいるような、そんな気持ちがして気が滅入る
静かに時を刻む電子時計の隣に居場所を見つけたそいつは、あたかも前々からそこにいたようにどっしりと構えて佇んでいた
名前なんてつけたらこりゃ人生の終末だなと思い、まぁ適当にコケと呼ぶことにした
実際に名前を呼ぼうなんてハナから思っていない
ただ心の中で呼ぶ名前を付けただけなのだ
そう、このコケを実際に呼ぶことになるなんて誰が想像しただろう
奇妙な出来事は、苔が我が家にしてから3日目に起こった
それは自然に、ごく自然に始まったのだ
