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かぐや姫は月が出る度に、ひどく泣いていた。

翁が何故か問うと、「月見れば、人の世の心細さにあわれが増すというだけで、何でもございません」
と言った。

そして、8月15日が近くなり、よりいっそうひどく泣いた。

何事かと周りが驚き、かぐや姫に問うと、こう言った。


「前から申し上げようと思っていたのですが、お悲しみを見るのが嫌で今まで、のびのびになっておりました。

わたくしは、この国の人ではなく月の都の人ですのに、前世の縁で、この国に生まれました。

けれど、今は月に帰るときがまいりました。

今月の15日に月の国から迎えがまいります。

そして、月に帰らねばなりませんことが悲しくて、また、わたくしの去ってしまうことを悲しむ方々のことを思うと切なくて、この春からふさいでおりました。」


かぐや姫は続けた。


「月の都には父母もあり、つかの間のこととて、この国に生まれましたが、長い年月この国で暮らすことになりました。

月の国の父母のことは覚えておりませんし、月に帰るとて嬉しい気持ちもなく、みなさま方と、お別れするのが悲しゅうございます。けれど、これは、わたくしのままならぬこと。」


かぐや姫はこう伝えた。

しかし今までかぐや姫を育てた翁は信じられず、帝に大勢の家来を連れて来て、かぐや姫を月より来る者から守って欲しいと伝えた。
帝は、かぐや姫を帰す事を拒んでいたので同意し、2千人程をかぐや姫を守らす為に遣わせた。

そして汚い言葉を吐く翁を見て、かぐや姫が言った。

「そんなことを声高におっしゃって、みっともない。
お心の中を思うと、去る事は口惜しゅうございます。長いこの世とも思えませなんだが、去ることは悲しゅうございます。

親御さまの御恩に報いることもなく去ってしまいますのは心残りでございます。
今一年の御猶予を、と願っておりましたが、もうこれ以上は許されぬ身の上。

お嘆きを見て去る心のうち、お察してくださいまし。
月の都の人は老いることもなく、物思うこともなく美しいと申します。

さりとて老いのない月の国に行くことも嬉しいとは思いません。

お二人の老い衰えるさまを見とられぬが悲しゅうございます。」













続く。