すりつぐぞ、すりつぐぞ
 
むがすむがす、ずっとむがす、あったつも。
 おじんつあんとおばんつあんが暮らしてだったんだど。
 とっても辛抱で働き者のおじんつぁんとおばんつぁんだったん
だど。

ずっとはなれた畑さ、毎日、晴れた日はかならず、おじんつ
ぁん、出はってって稼ぐのだったど。
 そのあとから、おばんつぁんが弁当こしやえで、ヤカンこさいっ
ぺえお茶っこ入れて持ってくのだったど。

 ところが、あるどき、かならず通ってく杉林のどこさ来たどき。
   すりつぐぞー すりつぐぞー
って、なんだか不気味な声で聞こえでくんのだど。

 んだけども、かならず杉林のなか通ってかねえけねえのだし、ヤ
カンさお茶っこ入ってるし、走るに走られねえ、
 「はあーっ。困った。困った」
って言ってると、また、うおんうぉんってな声だったさげに、その
うちにまた。

   すりつぐぞー すりつぐぞー
って語るから、目えつむってその林、通ん抜けて、
 「おじんつぁん。おじんつぁん。おれ、いままで気づかねがったけっども、なんだかあすくの杉林のなか通ってくっどきに、『すりつぐぞー、すりつぐぞー』って、うんと叫ばれて、おら、おっかねえ
やあ。走るに走られねえし、走ればヤカンっこのお茶っこ、みなま
かってしまって、汗流してるおじんつぁんさ、はっぱりお茶っこ飲
ませられねぇくなるし………」
って、おじんつぁんさ言ったっけぇ、
 
「なんにも走っことねえ。なにも逃げて歩くごとあんめっちやや。
こんどな、あそこ通ったどき、『すりつかば、すりつげぇーっ』っ
て叫べ」って言われたんだど。

 「はぁ~、そんで良かんべがや。おら、おっかねぇがすっちやや」
 [ええから、なんにも悪いことしてねぇのだ。なにおっかねえごと
あんだっけ。ええから、『すりつかば、すりつげぇーっ』って叫ん
でみろ、まず」

って言われて、おばんつぁん、帰ることにしたんだど。こんだぁ、
度胸きめて、逃げるもなんにもしねぇで、杉林のなかさ来たれば、
やっぱり、さきにはうぉんうおんうぉんうぉんって泣く、だんだん
に。   すりつぐぞー すりつぐぞー
って聞こえてきたから、おばつぁん、度胸きめて、
    「すりつかば、すりつげーっ」
って言ったど。

 したれば、べたべたべたべたっ、べたべたべたべたっ、首から背
中から、頭から足から、なんだかすりついで、走るもなにもできね
えで、家さ、うんっぎ逃げ帰ってきたど。そして、
 「なにすりつかったんだべやぁ」
と思って、着てたむずりこ脱いでみなほろってみだど。
 したれば、じやらんじやらん、じやらんじやらんと、みんな
大判小判、銭っこいっぺえ粘ってだっけど。
 「あらぁー。これは銭だっちや」
と思って

 よろこんで、おじんつぁん帰ってくるの待ってられるも
んでねえ、とっても誰さか言ってみだくて言ってみだくてわがんね
ぇから、その銭っこ集めて、みな、ミさ入れて、そして隣りのば
んつぁんに聞かせさ言ったっつも。

 「ばんつぁん。ばんつぁん。こいなわけだったぁ」
って言ったれば、そのばんつぁん、ひどく欲たかりで、稼ぎたくは
ねえけっども銭うんと欲しいなあと、いっつも思ってたから、
 「おら家でも、じんつあん、あすくの杉林の下さくぐって畑さ行がえん」って言ったっけえ、

 じんつあんが、。「おら、行きたぐねえ」
って言ったって、なにしたって、「畑さ行がえん。行がえん」
って、ぎりぎりやって、

  そして、
「おら、あとからお茶っこ持っていぐから」
って、-びやっこお茶っこ・がいでヽそこへ行ったど。
 そしたれぱ、やっぱり聞こえできだっつも。

   うぉんうぉんうおんうぉん
   すりつぐぞー すりつぐぞー             
 一回目言われても、すぐではわがんねえからと思って、そこ通って
おじんつぁんのどこさ行って、お茶っこ飲ませて、

 「じんつぁん。じんつあん。ヽやっぱり叫んでだあ。おれ、行ったってもやっぱり叫んでだ。
んでも、すぐ叫び返したんではうまくねえ。明日だなあ」

って、まだのやんだがるじんつぁん、畑さやって、びやっこばりお
茶たがいでったつおん。

 帰りにまだの来たれば、うおんうおんって叫びはじまったから、
こんだあ、待ってましたとばかり。
   すりつかば、すりつげーっ
   すりつかば、すりつげーっ
って、まだ、『すりつぐぞー』も語られねぇうちに、うんと叫んだ
つおん。

 したれば、べたっ、べたつ、べたっと、なにかがすりついたど。
 「ずいぶん重てくなったなあ。足もなにも動かねぇ位ぇ重でぇなあこんではたいした銭もらったべ」
と思って、どこかさ行ってほろぐべとして、
 よく見たれば、杉脂が
べだべだ粘ってて、はっぱり、羽織りっこも、むずりっこも説ぎ
もなにもできねぇヽうんっざねはいで逃げたど。


 だから、欲たかりっつものはするもんでねえ。人真似はしてわが
ねぇぞ、って教えられたもんでがす。

            こんで よんつこもんつこ さげした

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