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『試練2』


(オラだって一人や二人ぐらいナンパできんだぞ!)そう思った。

馬鹿本は、その矛先を一番ウブそうなチカに向けたのだ。

一番、弱そうな獲物を狙う、口がらヨダレを垂らしてばかりいる、

聞抜けな狼のようにチカにおそいかかったのだ。


 馬鹿本はいつも鹿角へは盛岡でバスに乗り換えるので、

午前十時くらいの下り盛岡行きのやまびこに乗車し、 何を思ったか、

古川で下車し、陸羽東線に乗り換え山形県、

最上町、立小路駅(たちこうじえき)に下りチカを呼んだ。


 そこで「オラ、チカのこと好ぎだ」とか心にもないセリフを吐き、

そんな言葉に馴されるチカもチカだが、

そうして立小路の隣の瀬見温泉 の旅館に引っ張って行き、

やることをやったらしい。


 伊豆野のオッちゃんの話では、「な~にあいつは素人女が初めてで、

童(わらす)のお医者さんごっこと同じことをしただけで

…目的はとげられなかったのだ…」と言っていたが。


 男の肌に初めて触れたチカは馬鹿本に夢中になったらしい

…馬鹿本の携帯の番号を教わっていたので、

冬休み中、暇だと電話をかけたらしい、

それも午前と午後、一日に二回もかけたらしい


チカはあの通り、まともに喋れない、

「アッペッポポポと意味不明な歓喜あげるばかりで、

始めの数回は適当にあしらっていた馬鹿本もツイにキレ本音を言ったらしい。

「ウルセー

   喋れねぇくせに!」 

人は誰でも人から言われたくないことがある…

僕の場合は犬である。同じ障害者同志であっても、

その辺が解らない人間がいることを馬鹿本が証明した。


 チカはたぶん、冬休みの帰省の列車の中で

スキーを担いだ力ップルを何組も見かけたのだろう。

そして…(わたしはなぜあんなふうにできないの)と羨ましがったに違いない。

別に障害があってもなくとも

年頃の若者は大なり小なりそんな感情をもっていると思う。


 チカみたいな女の子は

別に障害がなくともナンパしやすいタイプかも知れない。

喋れないのに電話しまくったのは、

肌を重ねた男なら不明瞭な言葉でも

心の中の歓喜を解ってくれると思ったからだろう


 チカも幼いと言ってしまえば、それまでだ。

僕の心にチカに対する同情心みたいなものが生まれてた、

もっと早くそんな心情みたいなものがあって、

チカを掴んでいれば、こんなことにはならず、

公演くらいまで、チカを引っ張って行き、

公演を乗り越えれたかも知れない。 


だけどその後の僕が、ひんどい、いつまで同情だけで、

チカに目を向けていられるかということだ。

僕の性格からして馬鹿本以上にチカを突き放していただろう。


同情心!それと似たようなことは、

僕とあやめちゃんにもあったのではないか。

あやめちゃんは小さい時から僕の担任でもあった

お父さんの和彦先生に障害者の接し方などについて

色々と教わっていて、優しかったが…疲れることもあったに違いない。


 僕と付き合っていた時は□に出しては言わなかったが、

深層心理としてはそんなことが存在してたのでないか! 

…だから菅家という男に僕とは反対の引っ張ってくれるものを

見いだしたに違いない・… 続く




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