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<育美ちゃん5>


『居酒屋会議』


 学校ちかくの焼鳥屋に訓練校の女の先生が数人、集まった。

私たちの学校は女の先生の方が元気があった。


 さて、その顔ぶれは副校長先生(以後、略し保科先生)

製本紙工科(男子の知的障害者の科)の佐藤あっ子先生、

縫製科の阿相京子先生(女子の知的障害の科)

電子科の脇坂友紀先生、

福祉機器の小松市子先生の先生方だった。


まず副校長の保科先生から口火をきった。

保科先生は印刷科で写真植字を教えていたがワープロ、パソコンの出現により

現在は学校業務専門で先生自身もポリオの障害者だ。


 先生はこんなことを言った。 

「私も長いことこの学校に関ってきたけど、自殺未遂事件はこんどで二度目なの、

もっとも最初の事件は自殺してしまって未遂じゃないけど」と先生は解説し…

 「ふうーんそうなんだ」と友紀先生は頷(うなず)いた。 

「ほら学校の食堂に須永文庫というロッカーがあるでしょう。

末長く故人の記念ということでの家族から寄付されたんだけどその須永さんが第一号なの

昭和五十五~六年頃ね」と保科先生が解説し、

あっ子先生が砂肝を頬張りつつ・…  

「どうして亡くなったんですか」 

「うん~なんか恋愛話しがこじれたみたい」と保科先生が言った。 

「そんなことで自殺したんですか」と友紀先生は質問し

「ただそれだけじゃなくって、その人女の子に妊娠させてしまったの」と

保科先生が状況を説明し、勤続が長い阿相先生が補足した。 

「そうだったわね…それでその女の子は退学になって、その子は別な男とも関係があってその男が妊娠させましたって自首したので

…それでその女の子は退学になり

男も退学になって。

その自殺した青年は苦しんだみたいね」

「もっとも誰の子はわからなかったんだけどね」と二人は言った。

阿相先生がまるで占い婆さんの声色(こわいろ)で

「わだすにーは見えるのでがす---電線をグルグル巻にして電気流して感電自殺した須永青年の歪んだ貌(かお)が!」

若い先生たちは「それでそれで---婆さん」といったので

「あのなオメェら、わだすは定年まで後一年あるんだよ」と

ビールを飲み干し声色をつかったので

居酒屋会議は大笑いになった。---次に続く

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